2012年09月10日
筆者はこのUH―Xプログラムは決定までのプロセスが非常に不透明であり、かつ軍事的整合性が低く、現実性も低いとして長年にわたって批判してきた。
現段階では官製談合があったと断定はできない。だが、間接的な証拠を積み上げていくとUH-Xプログラム決定に至るまでのプロセスには大きな疑惑があることは事実だ。
今年6月に筆者は、防衛省内局に対してUH―Xに関して取材した。その際、完成予想図の提供を求めたが、防衛省からは完成予想図のCGは川崎重工のものであり、同社から提供を受けて欲しいといわれた。
ところが川崎重工広報部、西野光生広報部長はこれを拒否した。この完成予想図は既にメディアにはリリースされているものだ。
筆者は同社に対してUH―Xに関しては批判的な記事を書くつもりだと述べたが、通常、防衛省が協力する取材に防衛関連メーカーが協力しないことは非常に稀である。これには筆者は極めて奇異な印象を受けた。
同社は今回の官製談合疑惑の報道に関してもこの完成予想図の使用を拒否するのだろうか。既に多くのメディアがこの談合疑惑の報道で、この完成予想図を使用しているのだが。同社の広報態勢は官僚的といわれる三菱重工よりも官僚的かつ閉鎖的だ。
陸上自衛隊幕僚監部(以下陸幕)は現在使用している汎用小型ヘリコプター、UH―1Jの後継機、UH―Xを開発している。だが、筆者はこのUH―Xこそが我が国のヘリ産業を衰退に追い込むと予想している。残念ながら筆者のこのような不安な「予言」は大抵的中してきた。
我が国には川崎重工、富士重工、三菱重工と、3社もヘリメーカーが存在する。ところが川崎重工がユーロコプターとジョイント・ベンチャーで開発した小型汎用ヘリ、BK117(ユーロコプター社はEC145と呼称)以外、国産ヘリは存在しない。BK117は国内でもドクターヘリとして多く使用されている。同機を除けば、国内メーカーは防衛省需要にほぼ100パーセント依存している。警察、消防、海上保安庁はもとより、国内民間市場は海外メーカーが占有しており、国内メーカーの売り上げはゼロだ。
ヘリコプターは軍民の垣根が非常に少ない分野だ。民間(非軍事市場)向けに開発された機体でも軍隊で使用されることは多い。現在、世界最大のヘリメーカーは欧州のEADS社傘下のユーロコプター社、第2位は同じく欧州勢でフィンメカニカ社傘下のアグスタ・ウエストランド社だ。これらの企業は民間市場で売り上げと業績を伸ばしてきた。
現在、ユーロコプター社の世界での軍民市場の売り上げは拮抗している。対して相対的に軍需に依存してきたベルやシコルスキーなど米国企業はシェアを下げてきた。ヘリビジネスではいかに非軍事市場が重要かわかるだろう。
我が国には武器禁輸の制限があるが、民間用ヘリを輸出することに問題はない。また海外の軍隊が民間用に開発されたヘリを軍用として使用することにも問題がない。実際にBK117/EC145は米軍や南アフリカ軍など、多くの軍隊で使用されている。
トヨタのランドクルーザーは世界の軍隊で軍用戦闘車輛、また装甲車輛のベースとして使用されているが、日本政府はなんら問題としていない。これと同じで汎用品の軍事転用となるからだ。ところが我が国のヘリメーカーはBK117以外、全く輸出に成功していないのだ。
つまり国内ヘリメーカーは売り上げを防衛省に依存しており、それ以外の内外の市場ではゼロに近い。つまり市場経済に晒されていない。このため国営企業的な非効率を内包しているといってよい。
90年代以降、欧州ではヘリメーカーはユーロコプター(仏・独)とアグスタ・ウエストランド2社(伊・英)に統合され、ロシアでもミルやカモフといった複数のヘリメーカーが、ロシアン・ヘリコプターに統合されている。社会主義国の中国でもヘリメーカーはAVIC社に統合されている。軍民共に世界最大の国内市場を持つアメリカを除けば、一国に複数のヘリメーカーが存在している国はない。食べていけないからだ。
対して我が国は3社も存在し、概ね防衛省需要も住み分けをして競争を避けてきた。このため国産ヘリの価格は海外のヘリに比べ2~6倍となっている。富士重工がライセンス生産していたAH-1Sコブラは最大で米軍の調達価格の6倍だ。ヘリメーカーだけではなくエンジンメーカーも同様だ。我が国にはヘリエンジンのメーカーは2社存在する。これまた世界的にはあり得ない。
だが防衛省は、
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