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二大政党の党首選と日本政治の行方――2つの「民意」と民主主義

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

■自民党は右旋回か?

 民主党と自民党の党首選が行われている今、ここ2、3日の政治の大きなニュースを考えてみれば、9月14日には野田政権が「2030年代に原発再稼働ゼロ」を目指す新しいエネルギー政策をまとめた一方で、日中韓の領土問題が燃えさかり、特に中国では15日から各地で反日デモが行われて日系企業も襲われている。

 このような中で行われる党首選から、次の総選挙や日本政治のこれからの展開にどのような影響や予兆を読み取ることができるだろうか?

 まず、政治の全体状況を確認しよう。もちろん、日本政治の大きな論点として、国内問題では消費税問題と原発・エネルギー問題、そしてTPP問題などが存在するが、最近になって国際関係では日中韓の領土問題が急浮上した。いずれも、「WEBRONZA 白熱教室」でとりあげてきたテーマ、あるいは今後取りあげる予定のテーマである。

 民主主義の深化や質的向上という点では、原発・エネルギー問題は注目に値する展開を見せた。国民の相当数がこの問題に大きな関心を持ち、官邸前で紫陽花革命とも言われる大規模な脱原発デモが毎週行われて、野田佳彦首相も無視できなくなり、首都圏反原発連合の代表との会談をせざるをえなくなった。

 実は、野田政権は菅直人首相時代の脱原発の方向性を修正し、パブリック・コメントや熟議世論調査を行うことを決めた段階では、実は2030年における3つの選択肢(0%、15%、20-25%)の中で、15%を落としどころと考えていたと伝えられる。

 ところが、パブリック・コメントで87%が0%を支持し、熟議世論調査でも0%支持者が討論前の41.1%から46.7%に増加したという結果が出るに及んで、方針を修正せざるをえなくなり、2030年代の原発ゼロという方針へと転換したのである。

 もっとも、まだ核燃料サイクルは継続する方針だし、15日には枝野幸男経産相が建設中の3原発の工事継続を認める方針を示し、政策的には大きな矛盾を抱えている。

 それでも、民意を受けて根本的な政策を修正せざるをえなくなったことの意味は小さくない。この「民意」は熟議世論調査の結果にも現れているものだから、軽佻浮薄な「民意」とは言えないし、これを衆愚政と言うことはできない。

 逆に、この「世論」は熟議も踏まえた質の高い「民意」だから、このような変化は民主主義の質的向上の始まりであり、質的に高度な民主主義の始まりである。このような民意には権力者は従わなければならない。この民主主義の基本に鑑みて、野田政権の政策修正は、日本の民主主義の歴史に残るべき、重要な出来事である。

 他方で、日中韓の領土問題は、日本の民主主義にも暗い影を投げかけつつある。中国との関係について言えば、この出発点は石原慎太郎都知事の尖閣諸島購入の方針であり、次いで野田政権の国有化の決定である。これに対して、これまでこの問題を棚上げして日本の実効支配を暗に許容してきた中国政府は、激しく反発し、棚上げを止めて、監視船や漁船による領海侵入などにより「領有」を実現しようとする姿勢を示すに至った。

 この背景には、日中双方の人びとにおける政治的ナショナリズムがあり、これが質の高いものか低いものかは別にして、一種の「民意」が存在することは確かである。

 これは右派的な「ポピュリズム」とも言うことができるだろう。中国の反日デモに見られるような政治的ナショナリズムの昂揚は、歴史的に見て、「民意」による武力衝突、さらには戦争を呼び起こす危険性があり、「民主主義」の今後に暗雲を投げかけている。

 だから、ここには「民意」の分極化が見られる。原発問題は単純に左右軸に位置づけられるテーマではなく、「経済発展や電力の価格と人間の生命や健康の尊厳とのジレンマをどのように考えるか」という問題であり、脱原発派にも政治的な右派が存在する。

 ただ、ここでは便宜上、通常の左右軸を用いて説明すれば、どちらかと言えば「左」寄りの脱原発の方向に民意が示されている半面で、「右」の方では政治的ナショナリズムによる領土問題の激化が現れているということになろう。

 このような状況の中で2大政党の党首を決める選挙は、どのような展望や可能性を私たちに感じさせてくれているだろうか? 

拡大左から野田佳彦、赤松広隆、原口一博、鹿野道彦の民主党代表選候補者=9月13日、大阪市天王寺区

 まず民主党の代表選は、細野豪志大臣が立候補を断念した段階で、事実上、首相の再選という帰趨が明確になった。首相は街頭演説を1回しか行わず、演説会も3回に止まり、本格的な公共的論戦をしているとは言えない。

 赤松広隆・鹿野道彦・原口一博という他の候補は、消費税増税やTPP問題などにおける首相への不満を背景にして立候補したが、原発問題や領土問題も含め、首相とは異なる明確な方針を打ち出せなかった。

 要するに、小沢グループなどが離党した今、民主党内部には首相とは別の新しい路線を本格的に提起して雌雄を決する力はないということである。

 他方で、自民党は民主党よりも華々しく総裁選を行っており、メディアでも大きく取り上げられている。しかし、実際には消費税増税や3党合意は全員が支持しており、脱原発にも消極的で、これらの国内問題については各候補の政策に大きな相違が見当たらない。

 他方で、領土問題については ・・・ログインして読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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