川村陶子
2012年09月19日
反イスラーム映像「無知なムスリム」に対する抗議が巻き起こっている。リビアの米領事館で大使を含む4名が殺害されたのを皮切りに、中東やアフリカの諸国で米国や英国、ドイツの在外公館、学校などが攻撃されている。抗議の動きはマレーシアなど東南アジアにも広がり、本稿執筆時点ではオーストラリアでもデモが行われたと報道されている。
ネットに映像を投稿した制作者の正体が見えないこともあって、人びとの怒りは米国やヨーロッパ諸国、イスラエル等に向けられ、抗議運動は国際関係を揺るがす一大事となった。
映像はムハンマドを中傷しムスリムを軽蔑する、あからさまな差別主義的内容だ。預言者の姿を描くことすらタブーとするムスリムにとっては、信仰とアイデンティティの根幹を脅かす許しがたいものである。
しかしながら、映像への抗議の手段として暴力に訴え、しかもその暴力を外国の大使館に向けた時点で、映像に抗議する人々はその制作者に「負けた」といえる。制作者の悪意ある挑発に乗り、「ムスリムとは国家の安全を脅かす凶暴な人びとだ」というイメージを世界に広めてしまったからである。
「無知なムスリム(Innocent Muslims)」という題名は「罪のないムスリム」という意味にも受け取れる。制作者は、「ハードコア」なムスリムがこの題名からムスリムへの擁護的な内容を想像してネット投稿映像を閲覧し、想像とは逆の内容に衝撃を受けて「信仰を放棄する」ことをねらったという(映像のプロモーションをしたアメリカ人退役軍人スティーブ・クラインに対するAP通信のインタビュー)。
問題の映像を筆者もYouTubeで閲覧してみた。
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