2012年09月26日
哨戒機のキモはエアフレーム(機体)ではなく、搭載システムだ。システムを更新すれば、P-3Cは今後も一線の機体として維持することが可能だ。
P-1搭載機器の開発も難航している。例えば、投下したソノブイからの情報を処理して潜水艦を探知する機上処理システムだ。これはNECが担当してきたが、数十億円の開発費と、約8000本のソノブイを投じて開発したものの満足な結果が得られなかった。
このため、評価用に米海軍の機上処理システムを借りようとしたが断られた。そこで沖電気が、ライセンス生産を前提にカナダの製品を調達してテストをしたところ、潜水艦を一発で探知できた。
そもそも国産のソノブイ自体の性能も怪しい上に、米国製の何倍も高い。
その間接的なエビデンスが、リムパック(環太平洋合同演習)だ。海上自衛隊は米海軍が主催する国際的な海軍の演習、リムパックにおいては自国製ではなく米国製のソノブイを使っている。
演習とはふだん使っている装備を使っておこなうことに意義がある。ふだん国産ミサイルを使っている航空自衛隊の戦闘機が演習のときだけ米国製のミサイルを使うなどということはない。実戦において自分たちの装備、戦術、訓練に不備がないか確かめるためにおこなうのが演習だ。その時だけ「よそゆき」を借りてくるのでは演習の意味をなさない。
この事実からは国産ソノブイの能力が低く、これを使うと演習では勝てないからだ。筆者は複数の海自関係者からそのように聞いている。
ソノブイすら満足に開発できないのに、対潜水艦システムのような複雑なシステムを開発できるのか疑問に思うのは筆者だけではあるまい。ソナー関連では国内メーカーはデバイスはともかく、ソフトウエアの開発力の低さが問題となっている。
「世界の艦船」2012年5月号に東郷行紀元開発隊群司令・海将補が「ネットワーク中心戦と浅海域ASW」という論文を寄稿しているが、東郷元開発隊群司令は艦船用のソナーに関して以下のように述べている。
「結論から先にいえば、国内メーカーは残念ながら真の意味でのデジタル化に必要なノウハウを、充分には持ち合わせていない~中略~このような技術レベルで、新ソナーを国内開発するのは極めてリスクが高いといえる」
「探知距離予測モデルひとつとってみても、残念ながら諸外国とはかなり差があるのが現状である」
日本の産業はエレクトロニクスが強いから、すぐれたソナーや対潜システムが開発できるというのは希望的観測にすぎない。我が国の装備開発予算、特に基礎研究予算は極めて少ない。他国の5分の1、10分の1の予算で他国を凌駕する兵器が開発できるというのは妄想にすら近い。それが可能というのは根拠なき選民主義、あるいは奇形的な愛国心の発露であろう。
ちなみに英国も哨戒機ニムロッドMR4のシステムでは多数米国製のサブシステムを導入している。
次期対潜哨戒機PX(現P-1)、空自の次期輸送機CX(現XC-2)に関して防衛省は当初、「合わせて3400億円」と発表し、非常に安価に2機種を開発できると宣伝してきた。だが個別の機体の開発費を出してこなかった。
つまりはどんぶり勘定の試算しか出していなかったわけだが、平成20年度代になると、個別の試算を発表しだした。
ところが近年に発表された数字は随分と異なってきている。
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