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【国産哨戒機P-1の開発は中止すべきだ(最終回)】 防衛省内で孤立した石破茂氏

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 新型哨戒機P-1の開発は時期的にみて、技術的な見地からは決して適切とはいえなかった。当時は技術的な端境期にあり、開発にはかなりのリスクが伴った。現在の哨戒機P-3Cの近代化、延命で十分に任務が果たせるのに、あえてこの時期に火中の栗を拾う必要はなかった。

 元来、対潜哨戒機には主としてプロペラ式のターボプロップ機が使用されてきた。これは低空での運動性と燃費が良好だからだ。だが後継機PXの開発が計画された当時、同じく米英でも新型哨戒機、P-8ポセイドン、ニムロッドMR4の開発が計画されていた。P-1も含め、これらは全てジェット機だ。

 新型哨戒機がジェットエンジンを選んだのは速度が速いために、速やかに該当海域に進出し、より広い海域を哨戒できるからだ。

 ところが既存のジェット旅客機をそのまま使用するのは問題がある。現代の旅客機は高高度を高速で飛ぶように設計されており、低空を低速で哨戒することには向いていないからだ。

 ただニムロッドに関して言えば、本機の原型は世界初のジェット旅客機コメットだ。しかし、旧式機であるがゆえに、高高度での性能が悪く、低空での飛行性能が相対的に高かった。米国のP-8はこの点では大変苦労している。

 海上自衛隊は、ジェット機でありつつ、低空での高い運動性を獲得するためには新しい機体が必要である、と主張した。また海自は既存のこのクラスの機体の旅客機はふつう双発だが、生存性を考えれば4発エンジンが必要であると主張した。

 こうして機体、エンジン、搭載システムすべてが新規開発のXP(後のP-1)の計画が進められた。

 確かに理屈で言えばその通りなのだが、すでに述べたようにわずか60機ほどの機体をゼロから専用に開発するのであれば、開発費はもちろん、維持費も極めて高いものになる。その分だけ開発リスクも増える。

 だから我が国よりもはるかに潤沢な予算を持つ米海軍ですら、低空での運動性をある程度諦めて既存のベストセラー旅客機である737を選んだ。737ならば機体の調達コストはもちろん、部品や整備費も極めて低く抑えられるからだ。

 米海軍といえども予算の上限があり、哨戒機にかけられる予算は限られている。その中で専用の機体を開発すれば、哨戒機の性能の根幹である対潜水艦システムに十分な予算をかけられなくなる。また予算が不足し、十分な数の哨戒機を揃えられなくなる恐れもあった。

拡大次期固定翼哨戒機(XP-1)の初飛行=提供・防衛省

 海自は米海軍ですらコスト高騰のために敬遠した新型機、しかも4発エンジンの機体の開発を決定したのだ。海上幕僚監部はP-1の開発を渋る石破茂防衛省長官(当時)に、「エンジンが4発なのはパイロットの安心感のためです。パイロットの気持ち、わかりませんか」と、詰め寄った。

 省内で孤立した石破氏は

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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