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自民党・安倍晋三新総裁は「君子豹変」の勇気を

恵村順一郎

 自民党総裁に安倍晋三元首相が返り咲いた。

 「近いうち」にあるはずの総選挙で、民主党の苦戦は必至とみられる。橋下徹大阪市長率いる日本維新の会も、勢いに陰りが出ているとの見方が強い。

 だとすれば、総選挙後の次の首相には自民党総裁、すなわち安倍氏が就く可能性が強いということになる。

 だが残念ながら、テレビなどで繰り返し強調されたにぎやかさとは裏腹に、総裁選の論戦は低調を極めた。同じ政党のなかの党首選びだから、路線や政策が似通うのは仕方がないという側面はある。

 だが、かつての自民党はもう少しましだった。タカもハトも、護憲も改憲も、保守もリベラルも包み込む懐の深さがあった。

 今回はどうか。5人の候補の全員がタカ派色の濃い主張を展開した。

 野党になって議員数が減った。同じ保守だがややリベラル寄りの民主党というライバルが成長した。そのなかで、自民党が生き残るには、旧来の堅い保守、堅い支持層に寄り添うしかない――。

 今回の総裁選は、そんな内向きで、活力を失った自民党の現状をくっきりと映し出した。

 当初は立候補できるかどうかさえ危ぶまれた安倍氏が、異例の再登板を果たした要因は何だったか。

 有力候補と見られた石原伸晃幹事長が「谷垣おろし」による「逆賊批判」や、みずからの失言で失速したこと。党員・党友による地方票で大きく差をつけた石破茂・前政調会長が派閥の会長や古参議員に嫌われ、国会議員票では伸び悩んだこと。

 そうした人間関係などが安倍氏を相対的に押し上げたことは間違いない。

 もうひとつ、昨今の尖閣諸島、竹島をめぐる中韓両国との関係悪化が背景にあった。

 若いころから保守派のリーダーであり、「強い日本」を訴える安倍氏の経歴と姿勢が、中韓の行き過ぎたふるまいにいらだつ空気と響き合ったのは確かだ。

 安倍氏自身、出馬表明の記者会見で、立候補を決断した理由として、東日本大震災の復興に役割を果たしたいことに加え、「ごく最近の竹島、尖閣での出来事」をあげている。

 総裁選後の会見では「この国難の時期にこそ、保守党としての原点、理念を国民にくっきりと訴えたい」と意気込みを語った。

 言うまでもないことだが、総裁選で投票権をもつのは自民党員・党友である。国民全体と比較すれば、保守的な考え方をもつ人が多い。

 それを意識したのだろう、総裁選のさなかや事前に安倍氏が訴えた主張には、極めてタカ派色が強いものが目立つ。

 領土問題では「尖閣は国家意志として断固守る」と主張する。避難港を造るなど実効支配の強化も訴える。

 慰安婦問題では、旧日本軍の関与を認めた河野官房長官談話について「子や孫の代に不名誉を背負わせるわけにはいかない」と見直しを主張する。

 植民地支配と侵略に対する反省とおわびを表明した村山首相談話についても見直すという。

 靖国参拝をめぐっては「前回の首相在任中に参拝できなかったことは痛恨の極み」として、首相に復帰した場合の参拝に意欲を燃やす。

 いずれもナショナリズムにアクセルを踏み込むような主張だ。一部の保守層に根強い考え方である。

 だが、こうした主張を次の総選挙でもこのまま訴えるのか。総選挙後、安倍政権ができたとして、これらをそのまま実行するのか。

 そうだとすれば、大きな不安を感じざるを得ない。

 中韓との関係悪化は必至だろう。実際、中国や韓国のメディアはすでに、安倍氏の総裁就任を受けて「掛け値なしの完全なタカ派」「極右政治家」などと決めつける報道をしている。

 それだけではない。安倍氏が重視する同盟相手、米国をはじめ国際社会から厳しい批判を浴びるのも間違いない。

 前回、安倍氏が首相に在任していたころのことを思い出してほしい。

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筆者

恵村順一郎

恵村順一郎(えむら・じゅんいちろう) 

朝日新聞論説委員。1961年、大阪生まれ。84年、京都大学法学部卒、朝日新聞入社。鳥取支局、大阪社会部、東京政治部、「AERA」編集部、名古屋社会部次長、政治部次長、論説委員、前橋総局長をへて、2012年4月から現職。

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