2012年10月11日
前回も書いたが、経済制裁によっては拉致問題は前に進まなかった。結果的に経済制裁の発動によって日朝協議は停滞し、それを動かすという名目で制裁がさらに強化され、そして事態は逆に膠着するという悪循環を招来することになった。
その一義的な原因と責任は、「拉致問題は解決済み」とする北朝鮮の不誠実な態度にあるのは言うまでもない。
しかし、法制定前から「経済制裁で拉致解決は困難」との指摘が数多く出されていたにもかかわらず、政府が、経済制裁の法制化→発動→さらなる強化に突き進むきっかけと流れを作ったのは、「経済制裁で拉致問題は解決する」「経済制裁は効果がある」と主張した政治家たちである。その責任は重いと言わざるを得ない。
北朝鮮に対する経済制裁発動から丸6年になる。衆院の解散総選挙が近いと言われる今、次期政権がこれまでの轍(てつ)を踏まないためにも、「復活の兆し」が顕著な安倍をはじめ、政治家たちが、これまでどれだけいい加減なことを言っていたか、振り返っておく必要があると思う。
責任を問いたくなるようないい加減な発言の代表例を挙げるとすれば、西村眞悟元民主党衆院議員、石原慎太郎東京都知事、そして安倍晋三である。いくつかの発言を取り上げてみる。
「日本だけでも本気で制裁すれば、北朝鮮は遠くない将来に崩壊するのは必至です」(石原知事の談話。雑誌「諸君!」2003年7月号)。
「北朝鮮への我が国からのカネ、もの、人が止まれば、政権の運営ができない。よって、我が国が、北朝鮮の恫喝には断じて屈しないとの覚悟のもとで、以上の法案を発動すれば、北朝鮮の独裁政権は、今年中にも崩壊する。その時始めて(ママ)、拉致の被害者は、救出される」(HP『西村眞悟の時事通信』2003年9月15日付から抜粋)
この二人の朝鮮半島情勢に対する一知半解ぶりにはあきれるばかりだ。経済制裁発動→北朝鮮崩壊→拉致問題解決という、あまりに短絡な発言は、扇動目的としか言えない無責任さだ。
西村と石原のこのような発言は、北朝鮮側が、根拠薄弱な死亡情報しか提示しないなどの不誠実な対応が繰り返されて国民感情が急速に悪化する中で出てきた。彼らの「勇ましい」発言は、国民の中の「報復・懲罰」感情を満足させ、刺激し、制裁法制化議論を沸騰させることになった。
結果、北朝鮮に対して日本単独でも経済制裁が発動できる法律が2004年6月に制定されることになる(「特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法」など)。
そして次に、制裁法発動への流れが出てくる。当時、拉致議連の会長だった平沼赳夫衆院議員と自民党の幹事長代理だった安倍の発言を振り返ってみる。
平沼は経済制裁について、2003年11月16日に開かれた拉致議連総会後の記者会見で次のように述べている。
「外交は対話も必要だが、(拉致被害者の)ご家族らのことを思うと即座にやるべきだ。(中略)断固やる。閣議決定のため議連で力を合わせて100パーセント実現できるよう努力したい」(2004年11月16日、共同)
安倍も発動に向けて次のような積極発言を繰り返す。
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