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【北大HOPSマガジン】疑問の多いオバマの再選キャンペーン

鈴木一人 鈴木一人(北海道大学公共政策大学院教授)

 私は現在、アメリカに長期滞在中で、ちょうど大統領選が迫っている時期に居合わせることもあり、こちらでのキャンペーンや選挙報道を目にする機会が多い。私自身はアメリカ政治の専門家ではないが、こちらでの報道や同僚との議論等から得た印象や感想は、しばしば日本で報道されているものと異なるように感じているので、ここで少し紹介をしておきたい。

■最悪だった第1回討論

 大統領選では大統領候補同士の討論会が3回、副大統領候補同士の討論会が1回開かれることになっている。それぞれ90分の討論会で両候補とも一つのテーマに対して2分の持ち時間で議論をすることになっている。

 第1回目の討論会はデンバーで10月3日に行われたが、ほぼ全てのメディアが共和党のロムニー候補に軍配を上げ、民主党のオバマ候補は「疲れきった顔をしている」「全く準備ができていなかった」「質問に対してはっきりした答えができなかった」「オバマは自信を失っている」と酷評されるほどの出来の悪さであった。

拡大アメリカの民主党全国大会で「より強い中間層を」というメッセージを掲げる支持者たち=2012年9月7日

 これまでロムニーの政策に対する批判を中心とし、金持ち優遇による景気対策がアメリカの中流階級を豊かにするという「トリクル・ダウン」理論を批判してきたオバマ陣営だが、ロムニーが討論会で「中流階級層の税控除を進める」と言い、富裕層の減税は今のままで十分との発言をした。

 これまでロムニーは共和党保守派や「小さな政府」を推し進める共和党支持層に訴えるため、下院予算委員長で「小さな政府」支持派の代表格であるポール・ライアンを副大統領候補に指名した。しかし、第1回討論会でロムニーは突如穏健派の主張を見せ、これまでの財政保守派の議論を表に出さなかったことで、オバマの選挙戦略がことごとく狂い始め、それが討論会の間、ずっと響いていたような印象すらある。

 元々、オバマは演説は上手だがディベートは下手、という下馬評が立っていた。また再選を目指す候補にありがちなことだが、大統領職を務めながら選挙の準備をすることは難しく、どうしても後手に回ってしまうという問題もある。しかし、そうした不利な点を差し引いたとしても、オバマの出来は相当に悪かったという印象が植え付けられてしまった。

 8月末の共和党大会では、ジョージ・W・ブッシュ政権の安全保障担当補佐官や国務長官を務めたコンドリーザ・ライスの演説は光っていたが、ロムニー自身も含め、印象に残るような演説をすることはできなかった。通常、党大会後には「バウンス」と言われる支持率アップが見込めるのだが、ロムニーの支持率は1%しか上がらず、党大会が選挙キャンペーンに勢いを与えなかったことは明白であった。

 逆に民主党大会はオバマ夫人のミシェルの演説や、ヒスパニック系の若く伸び盛りの政治家であるカストロ・サンアントニオ市長の演説、そしてクリントン元大統領の演説など、豪華で雄弁な演説が続き、オバマ自身の指名受諾演説も良い出来だったので、相当な盛り上がりがあった。その結果、オバマの「バウンス」は6-7%となり、ロムニーと大きな差をつけることになった。

 しかし、そのリードも第1回討論会の結果、どんどん縮まっており、党大会後にはオバマの再選が堅いと見ていたメディアもだんだんと不安をのぞかせるような書き方となってきている。

■激戦州の行方

 しかし、それでもまだオバマ有利の状況に変わりがないといえよう。それはアメリカの大統領

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筆者

鈴木一人

鈴木一人(すずき・かずと) 鈴木一人(北海道大学公共政策大学院教授)

1970年、長野県生まれ。立命館大学国際関係学部中途退学、同大学院国際関係研究科博士後期課程退学後、英国サセックス大学ヨーロッ パ研究所博士課程修了。筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授などを経て、2008年から北海道大学公共政策大学院准教授、2011年から教授。現在はプリンストン大学国際地域研究所客員研究員。専攻は、国際政治経済、ヨーロッパ研究、宇宙開発政策など。著書に『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、第34回サントリー学芸賞受賞)、共著に『グローバリゼーションと国民国家』(青木書店)、編著に『EUの規制力』(日本経済評論社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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