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 今年のノーベル平和賞を欧州連合(EU)が受賞することは、大いに意義があることだと思う。欧州に戦乱ではなく、和平を定着させた、という実績は高く評価していいことだ。しかし受賞の知らせに心が湧き立つ興奮や感動を覚えたかというとそうでもない。

 なぜ、そうなのか。

 EUの拠点のあるベルギーのブリュッセルには、2万人といわれるEU官僚が働き、最低3カ月に一度は、加盟27カ国の首脳が集まり、重要問題を協議する。域内の総人口は5億人。2011年、ブリュッセルを訪れる機会があったが、欧州議会や欧州委員会には市民の見学客が絶えず、「欧州の首都」という雰囲気を感じさせた。

 ところがこのEUはいま、ユーロの動揺と経済危機との格闘の真っ最中だ。ギリシャやスペインなど南欧諸国の救済が失敗すれば、ユーロ圏はおろか、欧州全体の経済の信用が落ちかねない瀬戸際だ。

 ノーベル平和賞が、経済危機の最中のEUに贈られた。苦闘の中にあるEUの背中を押して応援したいという思いが伝わるが、現実には、南欧諸国の街頭では緊縮財政へのデモや警官隊との衝突、流血が相次いでいる。

 そんな光景を見た後に、「戦争の大陸を平和の大陸に変えたユニークなプロジェクト」という平和賞の授賞理由を耳にすると、どこかブラックユーモアを聞かされた気分になっても仕方ない。

 大英帝国の「栄光」の記憶が捨てきれず、欧州統合を体質的に嫌う英国のメディアは、ここぞとばかりに、辛辣だ。

 「EUはジョークになった」「馬鹿げている」。タブロイド紙はこう書きたて、保守系のデイリー・テレグラフ紙は社説で「アルフレッド・ノーベルの子孫たちはお金の返還を求めても遅すぎはしない」と書いた。

 ノーベル平和賞の委員会が、アルフレッド・ノーベルの母国スウェーデンではなくノルウェーに設けられたのは、スウェーデンとノルウェー両国の和平と安定を願ったノーベルの遺志によるものだ。

 ところで、このノルウェーとEUとの関係はかなりねじれている。 ・・・ログインして読む
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筆者

脇阪紀行

脇阪紀行(わきさか・のりゆき) 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

1954年生まれ。79年に朝日新聞社に入社、松山支局などを経て大阪本社経済部に。90年からバンコクのアジア総局に駐在。米国ワシントンでの研修を経て97年からアジア担当論説委員。2001年からブリュッセル支局長。06年から論説委員(東南アジア、欧州など担当)。2013年8月末に退社、9月から、大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム特任教授。著書に『大欧州の時代――ブリュッセルからの報告」(岩波新書)、『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)。

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