鈴木崇弘
2012年10月26日
だが、実はこのことは、リーダーを考える私たち国民・市民あるいは有権者、別言すればリーダーのフォロアーの存在があってこそ、リーダーの存在があることを示している。つまり、リーダー(leader)とフォロアー(follower)は対(ペア)の存在であり、双方に必要とされる資質・要件やスキルであるリーダーシップとフォロアーシップもペアの存在なのである。いずれも片方だけでは存在できないのだ。
言い換えれば、どんないいリーダーが存在しても、どんなにいい政策が実施されても、それを受けとめ(あるいは受け入れ)、理解できるフォロアーが存在しなければ、民主制の下では、リーダーが選ばれたり、政策(の成果)が実現されることはないのであり、政治や社会はうまく回らないのである。
そのことは、フォロアー自身が社会においてどのような役割を果たし、どのような行動を取るべきかを知っている必要があり、さらにそのためのスキルや理解力がないとダメだということを示している。
そのフォロアーシップを考える上で非常に参考になる書籍『社会を変える教育――英国のシティズンシップ教育とクリック・レポートから』(長沼豊・大久保正弘編著、バーナード・クリックほか著、鈴木崇弘・由井一成訳、キーステージ21)が、最近出版された。
同書は、筆者も一部関わっているが、現在の教育課題を考察しながら、日本における的確なフォロアーを育てるシティズンシップ教育の必要性を概観すると共に、その教育の先進国である英国の現状と比較しながら、日本におけるシティズンシップ教育を導入する可能性を展望している。
さらに、同書で重要なのは、英国のブレア政権時に重要視されたシティズンシップ教育の検討のために教育省に立ち上げられた諮問委員会が出したレポート“Education for citizenship and the teaching of democracy in schools”(「シティズンシップのための教育と学校で民主主義を学ぶために」、いわゆるクイック・レポート)の全訳が掲載されていることである。
本委員会の委員長を務めたバーナード・クリックは、シェフィールド大学やロンドン大学の教授を務め、政治や民主主義に関する多くの本を出版しており、そのいくつかは邦訳もされている、英国の政治学の泰斗である。
英国のシティズンシップ教育は、2002年から中等教育段階で必須課目になり、この報告書が基になって実践されるようになった。その英国のシティズンシップ教育も、必ずしも順調に行っているわけではなく、多くの課題を抱えているようだ。だが、その教育が何を目指し、英国がどのような考えで導入したのかを知る上で、本報告書は最重要の文献であるといってよい。
私たちは、本書を通じて、翻訳はややこなれていないが、シティズンシップ教育に関する重要な視座を得ることができる。
そこで、そのいくつかをピックアップしておきたい。
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