2012年11月01日
空自を疑うに足りる「前科」がある。会計監査院は空自が導入した初等練習機T-7が、2003年度の導入からの17年間で約21億8300万円と見積もられていた整備費用が、実際には10年度までの8年間ですでに約18億2500万円と全体の約8割に達していたとして、改善を求めている。
T-7商戦では当初スイスのピラタス社が別な機体を提案していたが、そのとき富士重工は提案機体の価格をいきなり何割も下げてきた。まるでバナナのたたき売りである。たかが1年ほどで航空機の機体製造コストが何割も下がるなど工学的にあり得ない話だ。
このときは同社のスキャンダルでいったん練習機商戦が仕切り直しとなった経緯がある。その結果が富士重工案の採用だ。
このときピラタス社はより安い機体を提案した。だが空自は、調達価格はピラタスの方が安いが、LCC(ライフ・サイクル・コスト)はT-7の方が安いとしてこれを採用した。このとき富士重工はIRAN(inspection and repair as necessary、航空機定期修理)の期間を大幅に伸ばすことなどによって、整備コストを低減できると主張した。筆者は当時、これまた工学的に不可能だと指摘したが会計監査院の指摘はそれを裏付ける結果となった。
UH-60J改においても、T-7と同様に採用後になし崩し的に運用予算が高騰するのではないかと疑う方が普通だろう。
UH-Xの選定では、エンジンに関しても疑惑が湧く。空自のUH-X選定では三菱重工が提案するUH-60J改のみ、エンジンが官給品とされていた。つまり防衛省がエンジンは供給するということだ。エンジンを官が供給すれば、他の候補よりその分の機体のコストは安くなる。他の候補の機体はエンジンの価格を含むわけで、当然UH-60J改が圧倒的に有利になる。
官給とするならば、すでに空自が運用しているUH-60Jの中古エンジンの使い回し、あるいは同じエンジンを使用するということになる。だが実際は改良型のT-700―IHI-401Dが採用された。これを採用するにしても、中古エンジンを改良することもできなくはない。だがエンジンが古ければ、新品よりも維持費は高くなる。
そもそもすべてのUH-60J改良型エンジンを官給にできるほどの中古エンジンがあるのだろうか。そこで新品のエンジンを供給するというのであれば、公平な競争とは言えなくなる。調達決定後、エンジンの官給という話は消えた可能性もある。
機体の選定が適当かどうかも疑問が残る。ブラックホークは確かに戦術輸送ヘリとしては傑出している。「どのような過酷な環境でも動く」と陸上自衛隊のヘリ搭乗員たちの信頼も厚い。だがその半面、キャビンが狭く、低い。これは救難ヘリとしては使い勝手が悪い。
現在、防衛省は水面下で空自と海上自衛隊の地上ベースの救難ヘリ部隊の棲み分けを推進している。艦載用の救難ヘリは海自が運用し、地上配備用の救難ヘリは空自が運用することになりそうだ。この構想が実現した場合、UH-60Jの改良型で充分だろうか。
空自の救難ヘリは1~2名の戦闘機のパイロットを救出することを前提にしている。対して海自では哨戒機P-3CあるいはP-1、さらには艦艇の乗員の救助をおこなわなければならない。海自は艦載用救難ヘリとしてより大型の機体を調達するという話も聞こえてきている。
また島嶼防衛に鑑みた場合、より多くの人員が救助でき、衛生・救命装備などを搭載できるペイロード(最大積載量)があった方が有利だ。
空自の救難ヘリは空自の戦闘機パイロットだけを助けられればいいというものではあるまい。
現在のUH-60Jはペイロードやキャビンのスペースが充分ではないし、UH-60Jの改良型でも同様である。また機体の冗長性がなく、将来により多くの機材が必要となった場合、拡張性に欠け対応ができない。設計が古く、拡張性もないブラックホークを今後20~30年間も使用し続けることが、長期的に見て運用と費用対効果に適しているのか疑問だ。
UH-60シリーズは生存性の問題もある。水上に不時着時に使用される緊急フロートの浮力が不十分ではない可能性がある。
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