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菅直人前総理の原発事故本を読んで考えたこと

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

 菅直人前総理が最近出版した本を読んだ。それは、総理当時に直面した福島原発事故の経験と思いをつづった本『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』(幻冬舎新書)である。

 拙記事「鳩山さん、菅さん、ぜひ回想録を書き残してください」で、菅さんが政権当時の考え・政治決断や出来事について書かれることを要望した。同書はその要望に応えるもので、このような形で出版されたことをまず評価したい。

 それが、たとえ自己正当化のための内容であっても、こうして公になり、次世代も含めて、総理在任中の行動や考えを評価、検証できるようにしたことは、過去の経験を今後に活かすという意味において意義があると思う。

 特に福島原発事故に関しては、当時の政権中枢にいた人々(注1)が本を出版したり、また複数の事故調査委員会等が設置され、報告書(注2)が出されており、いまだ多くの未解決の問題や課題も多いが、それらとの比較の中で、より真実が重層的に理解できる可能性が生まれると考えられる。

 他方、そのように多くの出版物が出ているということは、この事故が、それだけ多層的で深刻、複雑な多くの課題を含んでいるということもできる(注3)。

 菅前総理の本を読んで、福島原発事故が日本にとっていかに重大な問題であったか、そして現在も非常に重要な問題であるということを再認識できた。

 前総理は、同書において、主に原発事故がどのように起こり、それをどのように対処しようとしたかを中心に描いている。

 だが、福島原発事故の問題は、事故そのものの問題にとどまらず、日本のガバナンス、民主主義、国(家)と国民との関係性、(経済)発展、原発・エネルギー、国家の安全保障、企業論理とガバナンス、日本文化、人材育成など、数限りない課題と問題を含意している非常に重要な問題なのである。

 その意味では、国民も政治や行政も、この問題を起点に、これまでのやり方や考え方を検証・再点検そして再考して、新しい方向性を見出すべきだし、新しい可能性に舵を切るべきだろう。

 しかしながら、

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