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日本政治に第三極を成立させるために必要なこと

政策男子部 伊藤和徳

 ある大手メディアの調査によると「石原新党」など「第三極」に期待するという回答が約6割に達した。二大政党にとっては脅威となりますが、一方で第三極なるものがいまいち明確に見えてこないというのも事実です。

たちあがれ日本の拡大支部長会議の最後に「がんばろう三唱」をする石原慎太郎東京都知事(中央)と平沼赳夫代表(左)=2012年10月30日午後5時45分、東京・永田町の衆院第1議員会館

 「第三極」とは、政権を担う最大与党と野党最大勢力の二大勢力に対抗できる勢力という意味合いで捉えられています。「極」という文字がある以上、それは「三番目の勢力」ということでなく、独立・対等の立場で二大勢力と対峙し、展開次第で二大勢力から影響力を奪取する力を秘めた勢力という意味と捉えられます。

 しかし一部では「新しくできた政党=第三極」であるようにミスリードされている場面もあります。新しくできた政党はただの新党であり、それ自体が第三極になる資質を持っているとは限りません。「第三極の結集」という言葉を聞きますが、正しくは「第三極へ結集」という言葉になるはずであり、前者の表現だと「第三極がたくさんあるのか?」という誤解が生じます。

 民主党と自民党に対抗する強い勢力には何が必要か。本稿では個々の新党・新会派の動きではなく、第三極の成立のために必要な「ヒト・コト・カネ」について論じていきます。

◆ヒトについて

 国会で確実に第三極とされる勢力になるには衆議院で100議席は必要です。参議院でも40議席以上は確保する必要があるかもしれません。さて、100人の衆議院議員を当選させるには相応の票を入れてくれる支持者が必要ですが、具体的にどのくらいの票を獲得すればよいのでしょうか? 

 2005年総選挙での民主党(113議席獲得)、2009年総選挙での自民党(119議席獲得)の得票数を見ると、小選挙区と比例区の双方でおおむね2000万票程度というのが100議席獲得の条件と言えそうです。

 日本の有権者数は約1億300万人ですので、このうち70%の方たちが投票に行くと仮定すると、投票者の約30%を味方にしなければなりません。このハードルは中小政党が乱立すれば下がる一方、定数削減によって上昇するため、次回総選挙でも「30%=100議席」という水準は一つの目安になるでしょう。

 石原慎太郎氏、小沢一郎氏、亀井静香氏、河村たかし氏、鈴木宗男氏、橋下徹氏、渡辺喜美氏。それぞれに独特の魅力があり固有の支持者を有している政治家たちがどのように手を組むのかはわかりませんが、有権者の30%から支持を得るというのは容易なことではありません。しかも「石原新党」はまだこの世にありません。

 浮動票の流入を期待する声もあるでしょう。確かに選挙が盛り上がらない場合は態度未定の方たちが6~7割はいますから、イチかバチかの勝負で浮動票の流入にかけてみるのも良いかもしれません。小党乱立の状況では票が分散してしまいますので、やはり投票先としては少しでもまとまっていた方が良いかと思われます。このままいくとオリーブの木は第三極に育たなそうです。

◆コトについて

 第三極を成立させるために必要なコトとは、国民が共感できる主張と政策課題です。政権を担当する第一極と、それを倒す立場である第二極にはない視点で、現状の複雑な世論構成の中から潜在的ニーズを顕在化させることが期待されます。最近は各業界団体やコミュニティのなかでも様々な対立意見が発生していますので、顕在化していない重要な問題は多々あります。 

 二大政党の政治家は常時各種団体の幹部との話し合いはしますが、中間層や若手に埋もれたニーズは汲み取ることができないのです。潜在的なニーズの顕在化は第三極が存在価値を発揮できる最たる部分であり、共感を得るために必要なコトです。幹部たちが「長年続いている○○補助金は削らない方が景気にとって良い」と主張しているときに中堅・若手あるいは「埋もれた志士」の話しを冷静に聞いたうえで「補助金支給よりも実は○○制度の欠陥に問題があるので我が党はこれを変えていきます」といった具合です。

 第三極たらんとする勢力は既存の問題について二大政党と同じ土俵にのってしまっては勝負になりません。日本に深く潜んでいる根本的な問題、つまりこれまで討論の議題に上がらなかったが重要な問題を整理して公約として掲げるべきであり、既存の政治上のゴタゴタの構造の中に組み込まれるべきでは無いのです。既存の問題によってコロコロ議論を変えることは第三極に求められているコトでは全くもってありません。

 もしも第三極への結集が既存のささいな問題により行ない得ないなら、そんな思考の勢力にはそもそも第三極としての存在価値は無いので、無理に連合・連携などしない方が国民にとって時間を浪費しなくて済むので有り難い限りです。

 新しい議論と価値基準の醸成こそ第三極に期待しているコトです。明治維新に人々が夢を見たのもこの点ではないでしょうか。

◆カネについて

 カネについて論じることを政治家は嫌いますが、必要不可欠な要素であり、精神的な部分、主に価値基準を具現化できるのはカネしかありません。ここでいうカネは資本と献金。献金には広く言えば労働対価も含まれますので、紙幣がなくても熱心な支持者が寝る時間を惜しんで政党活動に貢献することなども献金として考えられます。

 大量のカネを集めることは政党の原動力となります。どれだけ人気のある候補者をたてようと、どれだけ共感を得られるコトを政策課題にかかげようとも、選挙運動=PRが無くては周知されません。PRがなければ勢力の拡大はあり得ないのです。逆に意図する方向とは違う勢力からの資金援助はPRを抑制させる効果を持っているので、献金をどこから貰うかは非常に気をつけねばならない点でもあります。やみくもに集めれば良いというわけでもないのです。

 では、100人の衆議院議員を誕生させるために必要なカネはどのくらいでしょうか? 100人の当選者を出すには、おそらく3倍の300人程度の候補者が必要です。小沢一郎氏が民主党の選挙対策を仕切っていた際、定数2の選挙区に2人を擁立することが頻繁に行なわれましたが、全体の獲得票数の底上げのためには多数の候補者が必要なのは事実です。300人に選挙戦を戦わせるとして、まず小選挙区に立候補するのに一人につき供託金300万円、比例区との重複をする場合はさらに300万円で計600万円が必要です。

 かなり切り詰めた選挙であれば、選挙活動を解散してからの1か月に集約させ、ボランティア(労働対価の献金)を多く得ることができれば100万円以内で選挙戦を戦うことは十分可能ですが、大抵の場合はそう安くは収まりません。活動資金を400万円、供託金と合わせて1,000万円と仮定すると、300人で合計30億円がまず各選挙区への準備資金で必要です。候補者家族の数カ月分の生活費はこれに含まれていません。供託金の600万円はきちんとした選挙であれば返ってくるカネなので、各候補者の資本で賄うのが通例です。

 従って、献金などで集めなければいけないカネは300人×400万円でざっくりと12億円です。これに政党本部の運営資金が上乗せされます。都会で賃料の高い場所を政党本部として借りて、少なくとも政策を作れるスタッフや選挙運動に習熟したスタッフ、メディア対応のスタッフ等を雇用しなければなりません。中小政党が乱立し、候補者が乱立することで喜ぶのは不動産関連会社や選挙関連の事業を請け負う業者くらいです。第三極を目指す小党はカネの面からも早く合流した方が良さそうに思われます。減税を訴える前にまずは目の前の節約と向き合う方が優先順位は高そうです。

 最後に、ここまでヒト・コト・カネから第三極を成立させるにはどうするべきかを考えてきましたが、第三極を結成するには現実的な側面からも早く小党は合流するべきです。 そして、合流する際に気を付けることは「既存の議論は一先ず置いておく」コトです。そもそも過去の自民党も社会党も、常に党内一致していたわけではありません。霞ヶ関の各省内の見解は必ずしも上意下達で一致しているわけではありません。政治が複雑な意思決定の仕組みである以上、組織内に小異があるということが合流できない理由になるというのは必ずしも適切なことではありません。

 国民は新しい議論と価値基準の醸成を期待しているのです。日本新党からはじまり、民主党の政権交代ときて、今回が近代日本政治の第三局面です。私も含め「若い連中」から日本政治のためにも質の高い戦いを期待しております。

伊藤和徳(いとう・かずのり)

1984年生まれ。28歳。株式会社ワカゾウ設立者。マニフェスト大賞コミュニケーション部門 2011年最優秀・2012年特別賞受賞。ソーシャルプラットフォーム Guess the future 代表

政策男子部とは?>永田町や霞が関、地域の政策形成の現場を知り、本質的で具体性ある政策づくりに関わってきた20~30代の男子を中心とした部活です。社会を担う責任世代として、私たちは政策を練り、汗を流し、時代の潮流を作っていきたいと志しています。部活を通して、世代や立場を超えた多くの方々と出会っていきたいと考えています。

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