【北大HOPSマガジン】 「分断疲れ」のアメリカ――共和党が敗北した理由とは
鈴木一人 鈴木一人(北海道大学公共政策大学院教授)
■共和党が学ぶべき教訓
2000年以降の大統領選挙では価値の問題、すなわち同性婚や人工妊娠中絶の問題などに関する宗教的保守/リベラルの対立や、財政問題における小さな政府/大きな政府の対立、そして移民問題や雇用問題などに関する社会経済的保守/国際派といった対立軸が明示的に選挙の争点を構成し、民主党と共和党のコントラストがはっきりした選挙であった。
ジョージ・W・ブッシュとその選挙参謀であったカール・ローブは積極的に対立軸を明確にしてアメリカを「分断」して支持層を固める戦略を取り、2008年のマケイン陣営も副大統領にサラ・ペイリンを指名することで、宗教、財政、社会経済問題についての保守派を満足させる戦略を取った。
その結果として、共和党は保守派、民主党はそれに対抗するリベラル派が優勢となり、穏健派保守や穏健リベラルといった中道派の勢力が弱くなってしまった。それは大統領選の結果以上に議会の構成にかかわる問題となっていった。
極端な政策を掲げる議員が増えたことで議会の対立が激しくなり、さらに2010年の中間選挙で共和党が下院の多数を占めたことで、アメリカ式の「ねじれ現象」が起き、予算や法案など、様々な点で「決められない政治」が続くことになった。それが現在も問題になっている「財政の崖(Fiscal Cliff)」の問題である。
「財政の崖」とは2012年末に大型減税策(いわゆる「ブッシュ減税」)が失効することで、財政のバランスが崩れ、それが債務上限(議会が定めたアメリカの借金の上限)に抵触し、強制的に財政再建策が発動される状態を指す。つまり増税と極端な歳出削減が同時にやってくることでアメリカ経済、ひいては世界経済に大きなダメージを与えるものとみられている。
今回の選挙でも結果として上院では民主党が多数を確保したが、下院では共和党が多数となったことで、「ねじれ現象」は解消されず、「決められない政治」は続くとの見方が強い。
しかし、今回の上院選を見ていると、アメリカは
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