メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

「日本維新の会」も極右的政党になるのか?――「極右党首」が招く戦争への危険性

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

 「日本維新の会」の石原慎太郎代表は、11月20日に「尖閣の問題にしても、自分で血を流して守る覚悟がなければ(米国は)助けてくれない」と述べ、さらに「核兵器に関するシミュレーションぐらいやったらいい」と発言した。

 核武装論は、その前日に筆者がWEBRONZAで「戦後初の『極右党首』登場――『日本維新の会』と石原新党の合併が意味するもの」(11月19日付)でまさに指摘したとおり、石原氏の持論であり、この発言で、石原氏は維新の代表になっても極右的な持論をやはり撤回するつもりはないことが明確になった。これはどのようなことを意味するだろうか? 議論を続けよう。

■日中紛争激化の張本人は誰か?

 第2次世界大戦を想起すれば自明なように、極右政党は、ほとんど軍事的手段を重視し、軍事国家を形成しようとして戦争への危険を加速させる。石原氏の「国力はとどのつまり軍事力」というのは典型的な右翼的主張であり、さらに軍事国家・核武装や憲法破棄という議論は極右的主張である。

 すでに、石原氏は日中間に深刻な問題をもたらしている。都知事として尖閣諸島の購入計画を発表し、それを回避するために野田政権は尖閣諸島を国有化し、それが中国の政府や人びとを激高させて、激しい反日デモが起き、日中間に武力衝突の危険すら生じているのである。

 しかも、前原誠司国家戦略担当相によると、石原都知事は、8月に行われた野田佳彦首相との会見において、「戦争も辞さず」というような発言をし、それにあきれて野田首相は国有化を決断したのだ、という。石原氏はこれを否定したが、上記発言で「自分で血を流して守る覚悟」を主張しているのだから、こういった方向の意見を持っていることは確かである。

 この種の発言があったからといって、私は野田首相の決断を擁護するつもりはない。しかし、石原氏の言動は、このような形で日中関係の深刻な悪化をもたらし、日本経済にも大きな損失を与えた。この大問題を引き起こした張本人が石原氏であるということは銘記されなければならない。

 そもそも、東京都の知事は尖閣諸島の購入を知事として計画すべき立場なのだろうか? もちろん、これは都知事として、東京都民のためにすべき通常の都政ではない。領土問題は、国家の中央政府が責任をもって対処すべき問題であって、都知事の任ではない。

 実は石原氏は都政よりも国政に強い関心があるからこそ、このようなことをしたのであろう。だからこそ、都知事を任期の途中で辞任して国政に進出しようとしているのである。

 しかし、その都知事の行為は中央政府が看過しえない影響を日中関係にもたらす危険性があったので、中央政府はいわば石原氏の計画に引きずられるような形で国有化をしたわけである。

 筆者は、これを見て、第2次世界大戦へと陥っていく契機になった満州事変において、現地の関東軍が謀略によって柳条湖事件を引き起こし、第2次若槻内閣の不拡大方針に反して朝鮮軍や関東軍が独断で行動して事態を拡大させ、内閣が崩壊して中央政府もそれを追認していったことを思い出した。

 第2次若槻内閣は、立憲民政党内閣で親英米的・平和主義的な幣原外交を維持していたので、関東軍はそれに反発して中央政府の決定や意向を意図的に無視して満州事変を引き起こしたのであった。

 野田政権は自ら国有化の決定をしたのだから、その責任は免れない。しかし、本来、中央政府が対処すべき問題について、その任にない自治体知事が独断で行動し、中央政府に追随するような行動をとらせるに至ったという点では、石原都知事と民主党・野田政権との関係は、関東軍と民政党・若槻内閣の関係を想起させるのである。

 ある意味では、石原氏は自らの言動が日中紛争の激化という現実の事態を引き起こしたことを見て、民主党政権よりも中央政府が中国に対して強硬な姿勢をとるように、都知事を辞任して国政に進出することを決めたのであろう。都知事辞任の会見でも、石原氏は尖閣諸島に船の避難場所を設けることを主張した。

 石原・橋下氏の合意文書では、外交について「尖閣は、中国に国際司法裁判所への提訴を促す。提訴されれば応訴する」とだけ書かれている。しかし、石原代表が新内閣あるいは新国会で大きな影響力を持てば、これだけで終わる保証はどこにもない。石原氏と橋下氏の合意文書には過激な外交方針は記されていないから、石原「日本維新の会」が日中間に深刻な悪影響をもたらす危険は少ないと思う人もいるかもしれない。

 しかし、前述のように、石原氏は、合意文書に書かれていなくとも、持論を変えるつもりはないのである。そもそも、石原氏が1999年に東京都知事になった時に、あるいは2011年に4選を果たした際にすら、石原都知事が日中間にこのような大きな問題を生じさせると想像した人がいただろうか? 

 都知事となっただけでも、13年後にはこのような外交的大問題を引き起こしたのである。まして、第3極ないし第2極の要の党首となれば、遠からず深刻な悪影響を引き起こすことは予想しておかなければならない。

 万一、石原「総理」となれば、中国がさらに硬化するのは必至で、海上保安庁の巡視船などと中国軍の武力衝突に至る危険は決して少なくないだろう。石原「総理」が誕生すれば、今度は、国有化された尖閣諸島で、石原「総理」は日本政府による主権の行使として、自由に中国に対する挑発行為もすることができるようになるのである。

 たとえば、韓国の李明博大統領が竹島を訪問したように、石原「総理」は自ら尖閣諸島に上陸することもできる。「自分で血を流して守る気概」をもって、政府の命によって尖閣諸島に船の避難場所をはじめ様々な日本の施設を作ったり日の丸を立てたりもできる。中国の漁船や海洋巡視船の日本領海への「侵入」に対して、猛々しく海上自衛隊などを派遣して、「戦争も辞さず」に「毅然として」対応することを命令することもできる。

 こうなると、自衛隊が中国の艦船に「応戦」して日中戦争に発展する危険性すら考えられる。でも、果たして「反米的」総理の開始する戦争にアメリカが軍事的に加勢するだろうか? アメリカの支援なしに日本が中国を挑発して戦争を開始することは自滅的としか言いようがない。

 石原総理が実現しなくとも、「日本維新の会」が自民党との連合政権にあたって外相のポストを要求し「石原外相」が成立しても、あるいは「石原大臣」が誕生しても、同じような危険性はあり得るだろう。

 石原氏が首相になったり閣内に入ったりするというのは、石原氏自身が「暴走老人」と言っているように、上記の比喩を用いれば、「関東軍」が首相になったり閣内に入ったりするようなものである。

 閣内には入らなくとも、衆議院で「日本維新の会」は第3党か第2党にすらなる可能性があるのだから、石原代表の発言は中国政府を激しく刺激することになるだろう。国会で極右代表が率いる「日本維新の会」が影響力を持つだけで、日中間の紛争はますます激化し、軍事的衝突の危険性は加速度的に増加すると思われるのである。

 しかし、それは本当に多くの日本人が望むことだろうか? もし日中間の平和的な共存や日本経済の平和的な発展を大事だと思うのならば、逆に、国政進出にあたってはまず、都知事としての行為によって国政にこのような結果を招いた石原氏の責任の追及がなされて然るべきだろう。それにもかかわらず、石原代表を第3極の要として注目するという見方でよいのだろうか?


筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

小林正弥の記事

もっと見る