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「日本未来の党」は希望の星たり得るか?――「脱原発への結集」による真の第3極

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

■「日本未来の党」の誕生

 嘉田由紀子滋賀県知事が飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所)らとともに、脱原発を主軸の理念として「日本未来の党」を結成することを表明し(11月27日)、そこに小沢一郎氏の率いる「国民の生活が第一」や「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」(山田正彦・河村たかし共同代表、亀井静香幹事長)や、阿部知子・社民党前政審会長、「みどりの風」の衆議院議員などが合流することを決めた。これで、衆議院議員61名となって、解散前の衆議院では第3の勢力ということになった。

 「日本維新の会」が石原新党(太陽の党)と合流して注目される一方で、これまで脱原発や消費税増税反対・環太平洋経済連携協定(TPP)反対などを主張する政党には中小政党が多く、しかもバラバラだったから、このような政策に共感する多くの人びとはどこに投票したらいいかわからず、困っていた。

 原発再稼働問題では、「紫陽花革命」といわれるような官邸前デモが注目を浴びたが、そこに集まっているような人びとの意思が選挙で表現される回路がこれまではほとんどなかったのである。「日本未来の党」の結成は、このような状況を一気に劇的に打開するものであり、脱原発などの民意が代表される明確なルートを形成する。

 この政党に対しては、早速、競合する他党や評論家などから「急造」とか「選挙互助会政党」「小沢氏による影響」という批判が現れ始めている。これをどのように考えたらいいだろうか?

■脱原発への結集――民主主義の機能回復への道

 筆者は、既に何度も書いてきたように、小選挙区中心の「政治改革」による二大政党制化は日本では望ましくなく、戦前の二大政党制のように民主政の危機を生みかねないと考えてきた。「小泉自民党――前原民主党」の時代には、自民党と民主党の二大政党の政策が類似して「(革新右派)二大政党」となってしまうことを危惧して、その他の平和を志向するグループが「オリーブの木」方式によって「平和への結集」をおこない、「平和連合」を実現して、新しい中道左派の「第3極」を形成することを提案した(2005年)。

 民主党政権の成立によってこの危険性は一度は回避されたものの、野田民主党が谷垣自民党と接近して3党合意に至ったことによってこの危険性は再燃した。そして、実際に「総選挙後に日本は『戦前』に戻るのか?――二大政党制の崩壊と右翼的体制変革の危険性」(WEBRONZA 2012年11月29日)「『日本維新の会』も極右的政党になるのか?――『極右党首』が招く戦争への危険性」(WEBRONZA 2012年11月22日)で警鐘を鳴らしたように、自民党は安倍総裁になって右傾化し、「日本維新の会」は石原慎太郎という極右党首を迎えることになって、右派政権が右翼的体制変革を起こす危険性が増大してきた。

 このような傾向に対して、筆者は、「歓迎すべき民主党分裂――政治改革の失敗と小沢一郎」(WEBRONZA 2012年6月27日)で、民主主義や政党政治の機能回復という観点から民主党分裂と小沢新党の形成を望ましいものと論じた。そして、「民主党分裂と原発問題(下)――小沢新党は二大政党への挑戦者となりうるか?」(WEBRONZA 2012年7月3日)では、「小沢新党=国民の生活が第一」に関して、その課題を問いかけた。

 この新党は、原発に対する姿勢がまだ不明確なので、「もし小沢新党が『オリーブの木』のような第3極の結集を本格的に目指そうとするならば、消費税増税反対に加えて、原発・エネルギー問題についても政策を明確にし、旗幟を鮮明にする必要がある。果たして、小沢新党はそのような挑戦者たりうるかどうか? その資質と信念が問われているのである」としたのである。

 その後、「国民の生活が第一」は脱原発の姿勢を明確にしたが、その政策の内容にはまだ不充分さがあったし、何よりも小沢代表のダーティーなイメージが影響して支持率はそれほど伸びなかった。そこで、筆者は「二大政党の変化と第3極の行方――右派連合による右旋回か?」(WEBRONZA 2012年9月20日)で、右派連合政権の可能性を示唆する一方で、「脱原発法制定全国ネットワーク」の提唱により、遅くとも2025年までに政府に脱原発を実行させようとする「脱原発法案」が、「国民の生活が第一」(小沢新党)、新党きづな、社民などの超党派の国会議員13人により国会の会期末に提出された(9月7日)ことに注目した。

 そして、「このネットワークは、作家・大江健三郎氏や瀬戸内寂聴氏、音楽家の坂本龍一氏や弁護士らが設立したもので、政治家よりも文化人が大きな役割を果たしている点でも注目に値するだろう。継続審議になったものの、賛同議員は民主なども含め衆参の約100人にのぼるという。これは、脱原発という個別論点に関しては第3極を形成しうる人数である」と述べた。ここに、右派連合に対抗する第3極形成の希望を託したのである。

 このように見れば、「日本未来の党」が、まさにこのような要請に全面的に応えていることがわかるだろう。「国民の生活が第一」では、脱原発への信念が不明確だったが、「日本未来の党」の嘉田代表は、もともと京都精華大学教授などとして環境社会学などを研究した学者だったし、滋賀県知事として「卒原発」を唱えてきた。

 また、副代表の飯田哲也氏は、原発の現場を経験して「原子力村」の実態を知り、データを駆使してエネルギー政策を具体的に論じており、日本における脱原発論のまさしく理論的主柱である。この二人が中心である以上、脱原発の「資質と信念」には全く疑いがなく、およそこれ以上の組み合わせは想像しにくいほどである。

 実際に、この新党は、遅くとも10年以内に原発を完全に廃炉にするという「卒原発」を主張し、公約では、10年間の工程を「卒原発カリキュラム」として策定するとして、最初の3年間の「助走期」では、再稼働した大飯原発の停止、原発新増設の禁止、各原子炉の廃炉計画作成、高速増殖炉「もんじゅ」や六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場の即時廃止という具体的政策を打ち出した。

 また、原発廃止に伴う電気料金の値上げを抑制するため、値上げ相当分を交付国債として給付し、3年をメドに発送電分離を進め、国債の償還に関しては送電料で回収するとした。東京電力を3部門に分割し、廃炉・廃止に伴い財政支援措置も実施する一方、立地自治体を振興するための「地域経済シフトプログラム」を実施し、再生可能エネルギーの普及や新しいエネルギー産業の創造の基盤をつくるという。これらには現実性と具体性があり、専門家が中核にいるからこそ、発足直後に優れた政策を明確に提起することができた、と評価することができる。

 また、嘉田知事が新党結成にあたり公表した「びわこ宣言」では「経済性だけで原子力政策を推進することは国家としての品格を失い、地球倫理上も許されない」としていて、思想的にも重要な理念を示している。

 「地球倫理」という言葉は聞き慣れないかもれないが、もともとはカトリックの神学者ハンス・キュンクが提唱した概念であり、世界の諸宗教などが共通に持つ根本的倫理のことをいう。その中に「殺すな」「生命を尊重せよ」という倫理があり、そこから環境破壊などの解決にも有意義であるとされている。嘉田氏は、これを意識しつつ、地球に対する倫理という環境倫理の意味を込めて使っているように思われる。

 また、党名の「未来」は、党のオフィシャルサイトでは「だれもが希望を持てる未来を」「政治には未来をつくる力があります」「ご一緒に未来をつくっていきましょう」とあり、嘉田代表は「未来への安心」という言葉をよく使っているようである。公共哲学では、原発問題などを論じる際には、「将来世代への責任」というような言葉を用いる。党名における「未来」は、英語では「将来(future)」と同じであり、このような倫理的観点も想起させるのである。

 原子力・エネルギー問題は、経済的観点からだけではなく、倫理的観点からも考察する必要があり、ドイツが脱原発を決めたのは「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」の答申を契機にしていた。筆者は日本でこのような議論がほとんどないという問題点を指摘してきたが、この政党の発足により、思想的に高度な観点からエネルギー問題の解決を図る政治的潮流が現実化したことになる。これは、学者だった嘉田氏や専門家の飯田氏が中心になった政党だからこそ、可能だったことだろう。

 そして、この宣言には、稲盛和夫(京セラ名誉会長)・坂本龍一(音楽家)・菅原文太(俳優)・鳥越俊太郎(ジャーナリスト)・茂木健一郎(脳科学者)といった著名人が賛同者として名を連ねた。坂本氏が上述の脱原発法制定全国ネットワークにも名を連ねていたように、「脱原発法案」の動きとも類似性が存在し、財界人・文化人・学者がこの政党の発足に共鳴していることも注目に値する。

 これまで日本の政治においては、政党結成はプロの政治家が政治的観点からおこなうことが多く、その離合集散にも政治的なパワーゲームや当選のための作戦という側面が強かった。最近の多くの小党の結成にも、「選挙互助会」と揶揄されるように、このような側面があることは否めない。

 ところが、政治そのものは、本来、政治家のためのものではなく、人びとのための公共的な活動である。だから、第2次世界大戦後に、代表的な政治学者・丸山眞男は、「文化の立場からする政治への発言と行動」が重要であると指摘した。びわこ宣言への賛同者は、まさにこのような観点から意思表示をしたと考えられる。これは、この政党の文化的・公共的意義を証す点で重要であり、日本においては新鮮でもある。

 このように見ると、この新党は、筆者が指摘してきた第3極形成の要件を満たし、その可能性を十全に展開して成立したものであることがわかる。これは、まさに「脱原発への結集」による第3極形成そのものである。

 これで、どこに投票したらいいかわからなくなっていた多くの脱原発派の人びとが投票する受け皿が実現した。民主党分裂と小沢新党結成によって、民主主義の機能回復の可能性が開かれたが、「日本未来の党」は、小沢新党の難点を克服してこの機能回復を現実のものにしたのである。

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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