政策男子部・部長 間中健介(関西学院大学グローバルポリシー研究センター 客員研究員)
2012年12月04日
企業の会社案内には様々あるが、通常は社長のメッセージや商品紹介などに次いで「会社概要」や「歩み」の記載がある。
「会社概要」には従業員数、事業所数ならびに生産能力などに関する記載があり、「歩み」には、いつどんな製品・サービスを開発したか、いつ事業所を増強したか、いつ特許を取得したか、といった記載がある。ミッションや社長メッセージに次いでこれら実績、能力に関する情報があることでその企業の実行力や成長性が把握でき、就職先や取引先として検討できるようになる。
衆議院議員選挙にあたり各政党から「マニフェスト」や「アジェンダ」や「骨太」や「公約」といった名称でスタンスが示されている。ただし、これらにはミッションやメッセージ、政策アイデアのほか、政党によっては実績がアピールされているが、肝心の政策立案能力を把握できる情報が見当たらない。
党職員や政策スタッフの人数や専門分野、ブレーン(外部協力機関)の性質と専門分野、政策調査に要している予算額、党内の政策意思決定の流れ、過去の立法活動推移といった、企業で言うところの会社概要に相当する情報がないのである。
成熟社会における政策立案は労働集約型の地道で緻密な作業によってなされるものであり、上記のような情報なしで「我が党の政策立案能力を信じてくれ」と言われても、あまり心地よいことではない。
「30年代に稼働ゼロ」「3年以内に結論」「卒原発」「30年代までにフェードアウト」「市場原理による原発ゼロ」「即時原発ゼロ」。スタンスの違いはあれ、どの政党も原子力発電(原発)への依存を減らす方向で主張を展開している。では実際に原発を減らす、あるいはなくすための「脱原発力」は示されているだろうか。
脱原発は人類にとって最大級の難題である。スイスやドイツは昨年以降「脱原発」に舵を切っているが、現在のところ原発ゼロの見通しは立っておらず、原発の安全管理体制の見直しなどによって一定程度の原発依存が続く模様となっている。
私たちは原発の無い社会を目指さなければならないが、先進国家の経営において電力需要不安はあってはならず、また、脱原発によって短期的に生じる可能性のある雇用喪失を無視することもまた許されない。
脱原発のためにどんな政策のもと、どんな法案を改廃し、産業界・学界からどのような知恵を出してもらい、産業界のどのセクターにどんな協力をしてもらうのか。政策変更によって発生する利益を最大化しつつ、外部不経済をどのように極小化し、どのステークホルダーを説得するのか。
各政党の「脱原発力」を図るうえで、そうした情報こそあってほしい。同じことは増税論議にも言える。現行の社会保障制度などをはじめとする諸制度が続けば、10%を超える、さらなる消費増税が不可避である以上、上げ潮なり行政刷新なり何でも構わないが「脱増税力」を見せてもらいたい。
企業が市場において「安さ」「質の高さ」「早さ」などを前面に出してポジショニング戦略をとるのと同様に、政党もまた、自分たちが戦いやすいイシューと狙いやすい支持層を定め、陣地取りをする。それ自体は否定されるべきものではないが、有権者は陣地取り合戦の熱狂に騙され続けるほど愚かではない。
現実世界では、いますぐ解決すべき課題が山積している。「何を解決するか」の議論に留まらず「どのように解決するか」について、より深く具体的に示してほしいし、そうすることで国民に役割と覚悟を認識させることが政治主導における国家経営者の務めである。
近いうちに「政治主導のマニフェスト」が見られるようになることを、期待したい。
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間中健介(まなかけんすけ)
1975年3月生まれ。37歳。千葉県市川市出身。経済学修士、経営学修士(MBA)。衆議院議員秘書、外資系製薬会社広報スタッフ、大手広告代理店などで勤務。2007年よりNPO法人政策過程研究機構理事。2012年9月より現職。趣味はマラソン。
<政策男子部とは?>永田町や霞が関、地域の政策形成の現場を知り、本質的で具体性ある政策づくりに関わってきた20~30代の男子を中心とした部活です。社会を担う責任世代として、私たちは政策を練り、汗を流し、時代の潮流を作っていきたいと志しています。部活を通して、世代や立場を超えた多くの方々と出会っていきたいと考えています。
政策男子部Facebookページはこちらhttp://www.facebook.com/SeisakuDanshi
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