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「統治の失敗」を語らない民主党と自民党

薬師寺克行

薬師寺克行 薬師寺克行(東洋大学社会学部教授)

 毎回、総選挙になると各党が有権者に耳触りのいい政策を競う。原発ゼロや環太平洋経済連携協定(TPP)反対、巨額の景気対策や公共事業、子育て支援などなどきりがない。ところが、こうした政策を一体、どうやって実現するつもりなのかという点についてはほとんど語られることがない。

 2009年の総選挙で民主党は自らが掲げる新しい政策に必要な予算額を算出するとともに、公務員の人件費カットなどの財源を明記したマニフェストを公表した。その金額は16兆円あまり。もちろん結果は、惨憺たるもので、完全に絵に描いた餅に終わってしまった。

 民主党の失敗を他山の石としてか、今回は各党とも甘い話に必要な金額はもちろん、それらをどうやって実現するのかという財源や段取りなどのプランはほとんど示していない。中には細部を聞かれて「大きな方向性を示すのが政治だ。選挙で信任を受け、行政官僚に具体的な工程表をつくれと命じることが政治家の役割だ」(11月29日、日本維新の会の橋下徹氏の発言)という、開き直りのような発言も出た。

 しかし、総選挙で政権を争い政策を競うのであれば、当然、掲げた政策をいかにして実現するかということも重要なポイントになる。例えば、政権内の意思決定はどういう手順でやっていくのか、首相の権限をどうするのか、内閣と与党との関係をどうするのかなど、現実に政権運営していくために必要なことで法制度に明記されていないことは多い。

 政権を担う時、これらの点は個別の政策同様、非常に重要なポイントになる。ところが今回の総選挙では、これまでのところ統治手法について具体的な方策を打ち出した政党は皆無である。

 1996年に結党した民主党は、自民党の政権運営システムが長期単独政権が続くなかで非効率になってしまうとともに、様々な腐敗を生みだしたとして、当初から統治システム改革に熱心だった。党内に首相官邸の機能、官僚との関係、与党の役割などについて研究するチームをつくり、その結果をマニフェストに盛り込んできた。

 大きな柱は「内閣と党との二元的な政策決定過程の一元化」(党政調の廃止)、「政策決定過程の官僚主導から政治主導への転換」、「事務次官会議の廃止」、「閣僚委員会制度の導入」、「国家戦略局の創設」などなど多様な内容で、それらが2009年のマニフェストにも掲げられていた。

 自民党の統治システムは、内閣とは別に自民党の政調やその下部組織である部会が実質的に政策を決めていく二元的構造をもっていた。民主党は、この自民党の仕組みが族議員を生み出し、国会議員が関係業界などと癒着し腐敗していったと考え、大きく改革すべきと主張していた。

 さらに民主党は、必要な政策を機動的に合理的に決めていくためには、首相官邸の権限を強化するとともに、官僚に依存しないで政治家が中心になって政策を決めていく政治主導を実現する必要があると考えていた。こうした問題意識は有権者から理解され、それが政権交代を実現した背景の一つになっていたと思われる。

 残念ながら、2009年以降の民主党政権が挑戦した統治改革は、党内の分裂やねじれ国会、政治主導についての一部議員の誤解などによって、逆に政権運営を混乱させてしまう結果となった。過度に官僚を排除した間違った政治主導は政官関係を崩壊させた。重要な経済財政政策を決めるはずの国家戦略局は結局実現しなかった。党政調は3年の間に復活し、政策決定に与党の声を聞くプロセスが復活した。

 こうした失敗を民主党はどう総括しているのかと思い、既に公表されているマニフェストを読んでみたが一切、言及されていなかった。「政治改革」の項目に書かれているのは、企業団体献金の禁止、世襲の禁止、国会議員の定数削減などだけだ。民主党は過去3年間の政権運営の総括や反省もないまま、総選挙に突っ走っているのである。

 一方、自民党は野党転落後の3年間、どうしていたのか。 ・・・ログインして読む
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筆者

薬師寺克行

薬師寺克行(やくしじ・かつゆき) 薬師寺克行(東洋大学社会学部教授)

東洋大学社会学部教授。1955年生まれ。朝日新聞論説委員、月刊誌『論座』編集長、政治エディターなどを務め、現職。著書に『証言 民主党政権』(講談社)、『外務省』(岩波新書)。編著に、『村山富市回顧録』(岩波書店)、「90年代の証言」シリーズの『岡本行夫』『菅直人』『宮沢喜一』『小沢一郎』(以上、朝日新聞出版)など。

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