2012年12月06日
XC-2の開発は遅れている。航空機の開発が遅延するのはよくあることであり、そのこと自体を責めるつもりはない。だが、XC-2と同時に開発された空自の哨戒機P-1の開発遅延は避けることができた「人災」の可能性が強い(WEBRONZA【国産哨戒機P-1の開発は中止すべきだ】2012年9月5日~28日、全4回)。
XC-2とP-1は同時開発が決定された。この二つの機体は全く別の機体であり、このような開発がおこなわれた例は世界でもほとんどない。だが、防衛省(当時は防衛庁)は二つの機体のコンポーネントを共用化することで開発費、調達費を大きく削減できると主張した。防衛省は機体重量比で約15パーセント、搭載システム品目数で約75パーセントの共通装備部品を使用してコスト削減に寄与していると防衛省は発表している。だが、実はこれも眉唾だ。
XC-2、P-1のアクチュエーターなどを製造しているカヤバ工業は10月に名古屋で開かれた航空宇宙展にXC―2/P-1用のコンポーネントを展示していたが、本来同一のはずのコンポーネントは別々なものだった。機体の特性が異なりすぎて、同一コンポーネントの使用は不可能だったそうである。
当然、開発費はそれぞれかかるし、生産数は半分になるので生産コストも高くなる。他にもXC-2とP―1で別々に開発生産されているコンポーネントが多々あるようである。コンポーネントの共用率は防衛省の発表よりもかなり少なくなるだろう。このようなことは開発前でも技術的には容易に予想がついたはずだ。
当初、防衛庁(当時)はP-1とXC-2の開発は、同時に開発することで3400億円と極めて安価に開発できると宣伝した(これにはP―1のエンジン開発費は含まれていない)。
ところが近年に発表された開発費は随分と高騰している。P-1の開発費は、防衛省装備施設本部が発表した「平成23年度ライフサイクルコスト管理年次報告書」によると、試験費用を含む開発費は3027億5000万円だ。これでは機体、システムの開発費としては極めて少ない(この報告書では生産初期にかかる初度費が含まれていない。これまた極めておかしい)。XC-2の開発費は同報告書によると試験費込みで2046億4000万円。これに24年度の追加の開発費58億円を加えれば2104億4000万円となる。
つまり合わせて5131億9000万円で、当初発表された3400億円の1.5倍となる。だが防衛省は両機の開発費が高騰していることをアナウンスしてこなかった。それゆえか、筆者の知る限り国会でこの件が問題になったことはない。そもそも二つの機体の開発費をそれぞれ公表しないのは丼勘定であり、不明瞭である。これは納税者に対する真摯な姿勢とは言えない。
開発費・調達コストが上がった最大の要因は無理な同時開発であり、人災である。先ほど述べたように、二つの異なる大型機を同時に開発することは航空市場でもほとんど前例がない。なぜそこまでして川崎重工の仕事を増やす必要があったのだろうか。大いなる疑問である。
XC-2初飛行は予定の平成20年よりも大幅に遅れ、試験飛行用の試作機が初飛行したのは平成22年3月で、3月29日、つまり平成21年度中に技術研究本部に納められている。だがこれは極めて異例、異様と言ってもよい。
引き渡された機体は強度不足だったのだ。このため試験飛行も機体外部に補強材を貼り付け、内部にも補強材を入れて飛行させた。通常、防衛省が機体を受理する場合、「技本に承認された図面通り完成している機体」を納めることになっている。そうでなければ受理されない。それとも外部の継ぎ接ぎも技本の了承した設計であり、量産機にも継ぎ接ぎが当てられるのだろうか。
本来、防衛省はその「完成品」を受理して、試験の結果、性能などの要求が満たされれば装備として予算要求される。もし不具合などが発見されればメーカーにその解決が要求され、それが治れば装備化される。つまり、XC-2のような「未完成品」は、通常受領はされない。
22年度まで初飛行が延びれば、当然ながら全てのスケジュール(と、それに伴う予算措置)が1年は遅れる。だがそうなれば即時開発が中止となる。試作1号機は平成16年度に4年国債契約で契約されている。国債契約は通常延長できても5年、特例で6年まであり、それを過ぎれば契約が解除、開発が中止となるからだ。
また、生産開始が遅れれば川崎重工に量産機の仕事が入る時期も遅れる。XC-2を22年度に受領したのは防衛省・空幕の川崎重工に対する特別な「温情」あるいは「配慮」としか思えない。
またXC-2は性能面で問題がある。XC-2は当初最大搭載量が30トンとされていたが、2011年3月9日付の東京新聞がXC-2は機体重量が超過、即ち最大搭載量が数トン少ないと報じた。同報道では防衛省は「性能に問題ない」として2011年度の調達を決定した。筆者もこの重量超過に関しては報道してきた。
だが防衛省はどの程度の機体重量の超過があったかということすら公表していない。現在、欧州では仏独英などがXC-2と同じ機体規模の軍用輸送機、エアバスA400Mが開発されている。エアバス社はA400Mは12トンの重量超過があることを公表した。このような情報を隠蔽する防衛省の態度は納税者に対して不正直であり、誠実とは言えない。
ちなみに先に挙げた「23年度ライフサイクルコスト報告書」によるとC-2のペイロード(最大積載量)は「C-1の約3倍」としている。C-1のペイロードは最大8トンであり、その3倍ならば24トンに過ぎない、ということになる。
現状のペイロードは26トン程度は確保しているが、それは航続距離や飛行速度を犠牲にしたためであるとの情報もある。陸上自衛隊が開発中の105ミリ戦車砲を搭載した8輪装甲車、機動戦闘車は最大重量が26トン程度になるとされており、これが搭載できない可能性がある。ペイロードが最大26トンでも重量バランスや機内容積の関係で実際の装甲車など重量のある貨物が搭載できない場合もある。
防衛省はXC-2は高度1万2200メートルをマッハ0.8の巡航速度で飛行が可能であるとしてきた。また民間ジェット旅客機同様にRNAV(広域航法)システムを装備しており、民間旅客機と同じ高度・航路が飛行可能であるとしていた。たいていの軍用輸送機は民間のジェット旅客機よりも低速で、低高度を飛行する。いわば民間航路は高速道路で、通常の軍用機の飛ぶ低高度は一般道のようなものだ。これをXC-2のメリットの一つとしていた。
だがXC-2の巡航速度は同じく「23年度ライフサイクルコスト報告書」によるとC-1の約1.1倍とある。航空自衛隊のHPによればC-1の巡航速度はマッハ0.65(約650km/h)、最大速度はマッハ0.76(約800km/h)となっている。であれば、XC-2の巡航速度はマッハ0.67(約715km/h)となる。現状を見る限り、当初のジェット旅客機並みの高速巡行速度と、それによって生じるメリット、他の軍用輸送機に対する優位性は消えたと見てよいだろう。
防衛省、経産省、川崎重工はXC-2の民転化、つまり民間市場に輸送機として売りこむことを計画しており、この民間機と同じ航路を飛べることを、他の軍用輸送機を民転した競合機にないアドバンテージとして宣伝してきた。が、それも謳えなくなったということになる。
むろんこれはこれまで公開されている情報を元にした分析であり、この通りだと断言はできないが、防衛省が事実を隠蔽しており、状況証拠からはこのようにしか判断できない。情報がなくては議論も評価もできない。防衛省はこれらの情報を開示すべきだ。それが嫌だというならば民主国家の「軍隊」ではない。中国の人民解放軍と同じだ。
対して空自は東芝の偵察機システムに対しては対照的に冷淡だ。これは現用の偵察機、RF-4偵察機の後継となるシステムで、F-15J戦闘機を改造して偵察機化しようというもので、東芝が主契約社となっていた。
だが2011(平成23)年、防衛省は東芝に発注したこの偵察システムの開発をキャンセルした。性能が不十分だというのがその理由だった。そこで、東芝が2010年の9~10月の予定だった納期を12年春まで猶予するよう求めたが、これを承認しなかった。
防衛省は2007~09(平成19~21)年度に、システムの試作を123億円で東芝と契約。また三菱重工と、偵察ポッドを運用するためのF-15Jの機体改修について63億円で契約し、すでに改修を終えている。しかし防衛省は2011年2月に東芝との契約を解除し、システム施策費の支払いを拒否した。さらに違約金12億円を請求した。東芝は契約代金のうち、93億円の支払いを求める訴えを東京地裁に起こしている。対して防衛省は2012年10月に違約金12億円を東芝に請求する訴訟を検討している。
開発が失敗すれば開発費は支払わない、というのは極めて異常である。米国をはじめ他国では一般に、開発に失敗し、装備化されなくても開発費は支払われる。しかもメーカーが勝手に開発したのではなく、防衛省や空自も事前に評価しており、その結果、開発を承認してきたものだ。当然、責任は防衛省・空自側にもある。責任を全てメーカーに押しつけるのは極めて異常と言うほかない。
不思議なことに東芝の偵察システムの開発と調達をキャンセルしたにもかかわらず、空自は
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