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政策や政治を考えるための3つの発想――「設計」「実験」「参加」

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

 筆者が、これからの政策や政治を考えるうえで注目している発想、考え方がある。本記事では、それについて紹介してみたい。

 それは、「マーケットデザイン」、「行動経済学・実験経済学(政策実験)」、「ゲーミフィケーション」の3つである。読者の方々は聞いたことがあるだろうか。それらは、比較的最近注目されている考え方であるといっていい。

 まず「マーケットデザイン」について、説明しよう。

 マーケットデザインとは、「経済学(特にゲーム理論)で得られた最新の知見を活かして、現実の経済制度の修正・設計を行う新しい研究分野である」(注1)。

 このマーケットデザインは、今年のノーベル経済学賞を受賞した米ハーバード大学のアルビン・ロス教授と米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のロイド・シャプリー名誉教授が確立したことで、最近急速に知名度が高まった。

 この考え方は、実験やシュミレーションを通じて、理論の妥当性、実用性などについて検証し、理論を補完するチェック機能を使って現実の制度設計をおこなうことで、机上の空論に終わらないようにしている。

 またマーケットデザインでは、提案された新しい制度が直接現実の世界に応用されることが珍しくなく、実践的な側面がある。その点、他の多くの学問分野と異なっている。その実践例では、世界的にみると、公共放送利用権における周波数帯オークション、医療労働市場の研修医マッチング、従来の通学区域を越えて複数の選択肢の中から学校を選べるようにする学校選択制、腎臓交換メカニズムなどを挙げることができる。

 このマーケットデザインは、経済制度を所与のものと考えた受身的で伝統的な経済学と異なり、「経済制度は与えられるものではなくイチから設計するもの、あるいは自分たちの手で修正していくもの、としてとらえる点が大きく異なる」(注2)という。

 つまり、自分で制度設計ができるのである。従来の資本主義やその市場における問題・課題や歪みが露呈している現在、今後の経済システムを構築し、経済政策を創り出していくうえで、有用な視点になりうるということだ。ここでのキーワードは、「設計」「デザイン」だ。

 また、このマーケティングの発想は、政治制度においてもあてはまる。一般的に、我々は、政治制度を所与のものと考え、その枠組みのなかで、制度の改善を図りがちだ。だが、この発想は、必要に応じて、その制度自体を新しくデザインし直していくという視点も重要だということを示している。

 次に、「行動経済学・実験経済学(政策実験)」についてみていこう。

 行動経済学とは、必ずしも合理的に行動しない人間の経済行動や社会的な現象を観察し、経済学に人間の心理を組み込むことで、実証的にとらえていくものである。経済実験やアンケート調査などを駆使して、実施される。

 「実験経済学」は、「行動経済学」にも関わる。伝統的な経済学は、一般的な実験と異なって再現性がない。ところが、実際の人間を被験者として、条件を変更してそれを評価する経済学を実験経済学という。たとえば、オークションや競争入札で、入札数、参加条件、談合の有無などの条件を変えて、落札価格への影響を評価研究することがこれに該当する。

 「行動経済学」「実験経済学」のうち、特に社会的で政策に関わるものがまさに「政策実験」だといえる。

 先日、気鋭の経済学者を顕彰する第3回円城寺次郎記念賞を受賞したアリゾナ州立大学の田中知美助教授(注3)の受賞記念講演を聞く機会があった。同氏は、行動経済学・実験経済学を活かして、ホームレスの貯蓄意欲を高め、ホームレスから脱却させる政策実験をしたことなどで同賞を受賞した。

 同氏は、「政策実験のように、自分で実験をしてデータを集めるということは、これまでの経済学とは全く異なる」が、「経済学という基礎があるので、このような分野の意味がある」のであり、「実証から理論にフィードバックすることが重要である」と述べた。また「政策をデザインしてテストし、政策が有効かどうかを試せる政策実験に取り組んで」おり、「途上国では、予算が限られているので、この1、2年、行動経済学などを活かした政策実験を始め、行動経済学に注目が集まっている」と指摘した。

 日本も、財政的な制約性が高まって政策の失敗は許されなくなり、政策における有効性を高める必要性がある。その意味では、行動経済学・実験経済学に基づく政策実験を実際にした上で、政策を執行・実施する必要があると考えられる(注4)。ここでのキーワードは「実験」だ。

 最後が、「ゲーミフィケーション」。

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筆者

鈴木崇弘

鈴木崇弘(すずき・たかひろ) 城西国際大学客員教授(政治学)

城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科客員教授。1954年生まれ。東京大学法学部卒。マラヤ大学、イースト・ウエスト・センターやハワイ大学大学院等に留学。東京財団の設立に関わり、同財団研究事業部長、大阪大学特任教授、自民党の政策研究機関「シンクタンク2005・日本」の設立に関わり、同機関理事・事務局長などを経て現職。中央大学大学院公共政策研究科客員教授。著書に『日本に「民主主義」を起業する――自伝的シンクタンク論』『シチズン・リテラシー』『僕らの社会のつくり方――10代から見る憲法』など。

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