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自民党「国防軍」創設公約の前提とは?

櫻田淳

櫻田淳 東洋学園大学教授

 此度の衆議院選挙の結果、近々、安倍晋三(自由民主党総裁)を首班とする第二次内閣が発足する見込である。選挙に際して発表された自由民主党の「政権公約」の中でも、憲法改正を通じた「国防軍」創設は、最も自民党色の濃いものであり、それ故にこそ、内外に反響を呼んだ。特に中国や韓国から示されたのは、石原慎太郎や橋下徹を二枚看板とする「日本維新の会」の勢力伸長に併せ、それが日本における「極右」傾斜の表れであるという反応であった。

 しかしながら、安倍の政権掌握が再び成ろうとしている今、この公約実現へのハードルは、明白に下がったと評価すべきであろう。こうした公約に示される政策志向に抵抗すべき政治勢力は、共産、社民、未来三党に民主党内横路・菅系を加えて僅か二十数名の当選という選挙結果が示すように、既に「風前の灯」といった趣きである。

 加えて、対外関係の上でも、「国防軍」創設のような政策志向を取り巻く「空気」は、変化を来たしつつある。たとえば、アルバート・デル・ロサリオ(フィリピン外相)は、英国紙『フィナンシャル・タイムズ』(十二月十日付)とのインタビューで、「(日本が再び軍を持つなら)強く歓迎する」と語った。

 デル・ロサリオの発言が英国メディアに載るということの政治上の効果は、相当に大きい。この発言は、自民党の「国防軍」創設公約が「偏狭な民族主義」心情の所産ではないことを代わって説明したようなものであるからである。

 中国政府の対外姿勢は、日本だけではなく周辺諸国の重大な懸念を呼び起こしている以上、昔日ならば間違いなく警戒の対象となった「国防軍」創設のような政策志向もまた、決して独善的なものではなく、他の国々の利害にも合致するものとして受け止められる。デル・ロサリオの発言は、そうした事情を浮かび上がらせているのである。

 もし、近い将来、日本が「国防軍」創設を実現させた上で、フィリピンをはじめとする東南アジア諸国に安全保障上の協力を展開するのであれば、それは、第二次世界大戦時の「遺恨」を上書きするものになるであろう。「第二次世界大戦に際して、日本がアジアを解放した」などという右翼・民族主義系議論は、いかにも後付けの匂いがして気持ち悪いものであるけれども、こうした「現実の脅威」への対応に際しての協力は、早急に進める必要があろう。

 ただし、こうした安全保障上の協力を展開する際には、ひとつの条件がある。それは、「決して日本だけが突出して前面に出てはいけない」ということである。実際、米国とフィリピンは、安全保障協力の再開に向けた動きを加速させている。日本は、そうした動きに呼応し、一定の「制度」として定着させる試みを手がけてもよいであろう。こうした安全保障協力の枠組に順次、他の東南アジア諸国を入れていけば、それは「アジア・太平洋版NATO」という枠組に発展するであろう。

 日本の「国防軍」は、結局、日本の「民族主義的な自尊心」を満足させるためのものではなく、こうした「アジア・太平洋版NATO」の枠組を支えるものだと位置付けるならば、日本の「国防軍」創設に対する抵抗は、一挙に減るであろう。

 そうであるならば、「国防軍」創設の公約に手を着ける前段として、次の二つのことを手がける必要がある。

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