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アルジェリア人質事件――軍事行動を支持したフランソワ・オランドの「教訓」

櫻田淳 東洋学園大学教授

 フランソワ・オランド(フランス大統領)社会党政権下のフランス政府は、一月中旬、マリ情勢への軍事介入に踏み切った。また、フランス政府は、踵(きびす)を揃えるかのように、ソマリアで武装勢力に捕らえられていた工作員の救出作戦を決行し、それは失敗したようである。フランス政府は、アフリカの東と西で、ほぼ同時に「軍隊」を動かしたことになる。

 もっとも、こうした軍事行動は、「国家ではない」武装勢力を相手にするものであるが故に、一歩間違えば、「泥沼化」に陥る危険は、相当にある。この軍事行動それ自体は、国際政治上の非難を受けることはないかもしれないけれども、それが首尾よく進められるかは判らない。オランドも、色々と熟考した上で断を下したのであろう。

 これに関して、フランス社会党政権の姿勢を印象付けたのは、アルジェリア・イナメナス付近のガス精製プラントで起こった人質拘束事件への対応であった。この事件では、アルジェリア政府がイスラム武装グループとの交渉を拒否し早期に強行突入に踏み切った事情を反映して、日本人十名を含む多数の犠牲者が出た。

 『時事通信』記事(2013年1月21日配信)によれば、ローラン・ファビウス(フランス外相)は、事件に関して、「テロリストに免責はない。事件はテロに対し容赦なく立ち向かう必要があることを示した」と述べ、アルジェリア政府の判断を支持した。ファビウスは、「事件で非難されるべきなのはテロリストなのに、(突入を強行した)アルジェリアが問題視されているのはショックだ」と語った上で、外国人の人質に多数の犠牲が出た結果については、「事が終わってから決断を批判するのはたやすいことだ」とアルジェリア政府を擁護した。

 筆者は、このローラン・ファビウスの発言には、賛意を表する。こうした案件が起こると、「日本人が無事か」ということに関心が集中して、「対テロリズム行動で、どれだけ協力できるか」という話が脇に追い遣られるのは、何故なのか。筆者は、テロリズム対応に関していえば、「日本人さえ無事ならば……」という気分にはならない。

 日本国内では「民族主義者」だの「タカ派」だのと呼ばれる安倍晋三(内閣総理大臣)麾下(きか)の日本政府が、アルジェリア政府の強行突入判断を出来るだけ抑えようとしたのに対して、「フランソワ・ミッテランの秘蔵っ子」と称されたファビウスを含めて、フランス政府は、アルジェリア政府の対応を批判していなかった。注目すべきは、こうした彼我の「落差」であろう。

 ところで、筆者は、『WEBRONZA』に寄せた原稿「『左派・リベラル系』政治勢力の零落と再生への条件」(2013年01月10日配信)中、日本の「左派・リベラル系」政治勢力の再生ための条件の一つとして次のように書いた。

 「憲法第九条改正を通じた国防軍創設の動きに『支持』を与え、過去半世紀以上も続く軍事・安全保障上の『神学論争』に自ら終止符を打つことである」

 無論、こうした筆者の議論は、「左派・リベラル系」政治信条を長らく持ってきた人々には、容易に受け容れられるものではないであろう。しかし、

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