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防衛費増額400億円はまやかし、実際は「大軍拡」だ(上)――防衛費増で景気は良くなる?

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 平成25年度の防衛費の概算要求では、防衛費の増額は約1000億円と報じられたが、その後の政府予算では減額され、約400億円増に減額されたという。

 だが、これは事実とは言い難く、世論をミスリードする恐れが強い。事実、筆者が知っている新聞記者までも「1000億円増加」と頭から信じ込んでいた。

 しかし、この報道は正確ではない。嘘とは言わないまでも真実を語っているとはいえない。

 確かに平成24年度の防衛予算4兆6452億円に対しては1月に発表された概算要求では約1000億円の増額だった。

 ところが、昨年夏、民主党政権時のときに発表された25年度の概算要求では、人件費などの削減により24年度に比べて602億円、1.3パーセント減額されていたのだ。

 自民党が要求した新概算要求を民主党時代の概算要求を基礎とすれば、本来減額されるはずだった602億円が加わり、実質、約1600億円の増加額となる。

 これらは防衛省がHPで公開している概算要求の概略を述べた「平成25年度概算要求に関する主要事項」のトップページにも掲載されている。にもかかわらず、「1000億円の増加」という数字が一人歩きしている。メディアは民主党時代の概算要求の数字をキチンと国民に報じ、解説すべきだ。

 そして1月29日、防衛省予算の政府予算案が発表された。この政府予算案では防衛費は4兆6804億円だ。先述のように多くのメディアは、前年比0.8パーセント、約400億円の伸びとしている。既に紹介したように、今年度を基準にした場合はその数字になるのだが、民主党時代の概算要求をベースに考えれば約1000億円の増額となる。その差は2.5倍だ。筆者の知る限り、政府案に関してもこのように紹介したメディアはない。

 それだけではない。24年度の補正予算では契約ベースで約3251億円、うち本年度に執行される歳出ベースの金額で2124億円が要求されている。この歳出ベースの予算2124億円を併せれば、概算要求の25年度の防衛費は約3724億円の大幅な増額となり、政府予算案でも約3124億円の増額になる。

 このような事実関係を見落とすと、まともに防衛予算の多寡を議論することができない。

 防衛予算で調達される防衛装備品のほとんどは後年度負担、分割払いなのだが、ご案内のように補正予算では後年度負担(後述)は少なく、予算の約3分の2にあたる2124億円は歳出ベース、つまり本年度中に現金で支払われる。

 率直に申しあげればこれは露骨な選挙目当てのばらまきとしか思えない。

 先の大震災では現地に派遣された自衛隊部隊の無線機が足りず、また世代が違うと通信ができないなどの問題が露呈した。また輸送力や偵察機能の不足も目立った。筆者はこのような実態に対して東日本大震災以前から警鐘を鳴らしてきた。

 その震災の教訓をふまえて補正予算では通信強化などに848億円が要求され、また偵察・輸送機能や隊員の活動を支える装備品の調達などに600億円が要求されている。装備の稼働率を上げるための整備予算なども全般的に増やされる。トラックや兵站用装備、オートバイはもとより、哨戒機P-3Cに至るまで整備できずに稼働率がかなり低下しているからだ。

 補正予算ではこれらに手厚くなっており、一見すると理にかなった、リーズナブルと思われる要求も多い。だが、先述のように、これらの問題は震災が起こるはるか前から筆者が執拗に指摘してきた自衛隊の宿痾(しゅくあ)とも言うべき体質のなすところである。自衛隊の調達に根源的な欠陥があるのだ。

 端的に言えば自衛隊は旧軍同様にこれら「縁の下の力持ち」的な装備の調達を怠り、戦車や戦闘機など華々しい「弾が出る玩具」、正面装備ばかりを熱心に整備してきた。しかもこれらの装備は国際的な価格から見て何倍も高いのだ。だから「脇役的」な装備、整備・維持費、兵站などは軽視され、予算が極端に減らされてきた。

 つまり自衛隊は本来これまでおこなうべき、「実戦」に必要な装備の調達を怠ってきた。また後述するが、本来必要な装備を調達するために人件費を圧縮することも怠ってきた。全ては実戦を想定することなく、「パレード向けの軍隊」を整備してきた防衛省・自衛隊の判断や予算のあり方に問題があったのだ。それが先の大震災で露呈したのである。

 また後年度負担の支払いにもかなりの金額が当てられているようだ。このため、航空機などの大きな買い物を除けば意外に装備調達予算は増えていない。つまりツケ払いの圧縮を図り、防衛予算の健全化を図っている。これまた一見理にかなっているようだが、過去の野放図な予算執行の尻ぬぐいと、本来、数年先に支払われるべき金額を防衛産業界へ今年支払うことによって景気のてこ入れを図ろうという意図が透けて見える(後年度負担については後述する)。

 今度の補正予算でこれらを調達するのは遊び惚けて夏休みの宿題を怠り、8月末になって慌てた子供の宿題を、親がやるようなものである。率直に申しあげれば、自衛隊の無策・無責任を、税金を使って尻ぬぐいするようなものだ。

 このような予算がまかり通るならば防衛省・自衛隊のモラルハザードを招き、今後も正面装備偏重のいびつな調達、無駄使いが続くだけだ。

 本来、本年度の補正予算では既存の装備、特に大規模災害などで必要な無線機やトラックなどの稼働率を上げるための維持・整備に予算のかなりの額が盛り込まれるはずだった。ところがこれらの予算は大きく減額され、新規の「買い物」が増やされた。これらはいわゆる正面装備であり、需品系の予算も大きく削られた。

 もともとは補正予算の性格上、震災に備えるための予算を優先すべきだったが、防衛産業大手メーカーへのバラマキを優先したとしか思えない。

 国の借金は1000兆円に近づいている。国は歳入の2倍近い国家予算を組んでいる。これが未来永劫つづけられるわけはない。国家財政の立て直しは肥大した支出を抑えることが必要だ。防衛費もその例外ではない。

 防衛費を増額して装備を買えば防衛産業が潤い、これが景気回復につながるという声が経済音痴の自衛隊将官からはもちろん、政治家からも聞こえる。 ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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