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防衛費増額400億円はまやかし、実際は「大軍拡」だ(下)――危うい後年度負担

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 実は我が国の防衛費は危機に陥っているといってもいい。

 それは後年度負担、つまりはツケ払いが増えすぎて、防衛費を圧迫し、当年に使用できる予算が激減しており、近い将来、防衛予算が組めなくなる恐れがあるからだ。

 ゆえに、不要な支出を控えて防衛費を抑えつつ、付けるべき予算は厚くし、効率的な予算にする必要がある。そのためにはリストラ(構造改革)が必要だ。

 リストラの常道は固定費を削減することである。

 その一つめは人件費だ。我が国の防衛費は人件費が約4割を占めており、他国に比べて大きい。ゆえに任期制自衛官を増やすのであれば、士長以上将官までの人員の削減と抱き合わせて、人件費の総額を抑制、減額すべきだ。

 もう一つの固定費はご案内のように、繰り延べ歳出、いわゆる後年度負担だ(防衛省「我が国の防衛と予算(案) 平成25年度予算の概要」の32ページ「防衛関係費の構造」、33ページ「後年度負担の考え方」)。

 調達品は最大5年の繰り延べ払いが許されている。例えば100億円の装備品を本年度に調達しても、本年度は20億円を支払い、残る4年で毎年20億円ずつ支払うことがある。これはクレジットカードの「リボ払い」のようなものだ。ところがこの「リボ払い」が膨らみ、最近は100億円の装備を調達する場合、初年度がゼロ、つまり全く払わず、残りの4年で25億円ずつ支払うようなケースが増えている。

 即ち、その年度中の予算で「現金」を支払う余裕が減っているのだ。平成24年度では後年度負担は約1兆8500億円、25年度は約1兆9000億円である。防衛費の約4割を占める人件費などは後払いできない。このため残りの防衛費で「リボ払い」による硬直化が進んでいるのだ。

 つまり防衛予算で「リボ払い」が増えすぎて、その年に使える「真水」の予算が枯渇しつつある。このため特定の装備を集中して調達し、コストを下げるというような大胆かつ柔軟な予算を組むことができない。

 それどころか、ただでさえ長年にわたって細々と少数を調達している装備の毎年の調達数がさらに減り、単価がますます高騰することになる。そうなれば後年度負担がますます増えて防衛費の自由度を圧迫するという、さらなる悪循環を招く。

 これが進むと、その年度に待ったなしで支払う人件費や燃料費などの支払いができなくなる可能性すら出てくる。

 装備の少数調達による高価格化の一例を挙げれば、例えば航空自衛隊の救難ヘリUH-60J改は40機を20年で調達する予定だが、これが30年とか40年とかになってしまう。これは20年でも長いくらいで、最後の機体が調達されるころにはとっくに旧式化しているし、最初の機体は寿命が尽きてしまうので全機がそろうことがなくなる。

 つまり予定された「戦力」が完成しないのだ。たとえ完成しても既に旧式化しているし、その期間は極めて短い。

 対してこのUH-60J改にしても調達を5~7年程度に短縮すれば機数は35機ぐらいで済むし、調達単価も半分ぐらいになるだろう。防衛費の削りしろは極めて大きいのだ。

 しかも旧型機との併用が長ければ、その間、2機種の訓練、整備、教育、兵站が必要であり効率が悪い。消耗部品にしても量産できない。例えば20機の旧式機分と、20機の新型機の消耗品を生産すれば40機分の新型機の生産に比べて生産量はそれぞれ半分に過ぎないのだ。

 戦車や通信機などに至っては三世代同居だ。教育・補給・整備全て三重となっている。これは経済的に不合理なだけではない。戦時においても極めて不利だ。戦時において部隊が損耗した場合、複数の部隊を合わせて一つの部隊を作るなど部隊を再編して戦力を維持する場合があるが、性能の異なる戦車を寄せ集めて部隊を作っても、速度も火力も防御力も違うので、まともな作戦行動はできない。

 たとえば10式戦車のクルーは74式など他の戦車の操作ができないので、戦車が撃破されクルーが無事でも、そのクルーは他の種類の戦車をあてがわれても動かすことができない。このように調達・運用コストが高いだけではなく、戦力的にも大きな問題があるのだ。

 調達期間を圧縮すれば訓練、維持・整備、兵站コストなどを大幅に削減でき、ライフ・サイクル・コストは現在の半分から3分の1に圧縮できるだろう。逆に、これ以上調達ペースが延びれば、調達単価・維持費がさらにかさみ、余計に防衛予算を圧迫する。

 後年度負担を減らし、予算の自由度が確保できればこのような方法を使って防衛費を圧縮することも可能だ。

 先に述べたような補正予算で後年度負担を減らすのは一種の「徳政令」であり、不健全だ。後年度負担を減らすためには、毎年の予算の使い方を健全化する方が先である。

 しかし、そのような方策と合わせ、補正予算で一気に後年度負担を圧縮し、それによって特定の装備の集中調達(調達期間の圧縮)によって、調達単価や維持コストを減らすというスキームが出来ているのであれば話は違う。そのためには乱立する防衛産業の再編成も必要だ。だが安倍政権にはそのような明確なビジョンが欠如している。

 繰り返すが、本年度の後年度負担分の先払いは防衛省・防衛産業界のモラルハザードを招くだけだ。防衛省はこれ幸いとばかりに、これまで同様の不効率な調達を続けるだろう。

 安易な防衛費の増額は防衛産業をスポイルし、不効率な生産システムを温存することになる。また「借金」で「軍拡」をおこなえば、それは国力を削るだけであり、中長期的には国防力を弱めることになる。

 また安易な防衛費の増額は防衛産業のゾンビ化も招く。 ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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