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金正恩を支える「3大家系の体制支配システム」と秘めたる火薬庫「張成澤」

小北清人 朝日新聞湘南支局長

 この2月16日、平壌(ピョンヤン)の錦繍山(クムスサン)太陽宮殿は厳粛な空気に包まれていた。金正恩(キム・ジョンウン)第一書記、その両側を固める張成澤(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長、崔竜海(チェ・リョンヘ)朝鮮人民軍総政治局長をはじめとする軍服姿の面々。

 12日に3度目の核実験を行った北朝鮮の党中央軍事委、国防委、作戦実行司令部中枢の幹部らが、先代の「将軍さま」故金正日(キム・ジョンイル)総書記に、「核実験成功」の報告に訪れたのである。故総書記の愛妹で、30歳の正恩氏の後ろ盾となる金慶喜(キム・ギョンヒ)政治局員(人民軍大将)の姿も見える。

 16日は故正日氏の誕生日。宮殿には正日氏の遺体が安置されている。誕生日の4日前に強行された核実験は、正日氏(2011年12月死亡)に対する息子・正恩氏と政権中枢による誕生祝いのプレゼントだった。

 「参加者たちは、将軍さま(正日氏)を千年万年と長く奉り、最高司令官同志(正恩氏)の領導のもと、白頭の行軍の道を南の海の端まで進め、主体の革命偉業を完成させる火のような決意を誓った」

 北朝鮮の宣伝メディアはそう伝えた。「南の海の端」とは北朝鮮による支配を韓国まで広げようとの赤化統一の意志を強調したものだろう。

 宮殿には金王朝の創設者、故金日成(キム・イルソン)主席(1994年7月死亡)の遺体も保存されている。ここはもともと金日成氏の執務庁舎で、会議や賓客との会談などに使われていた。金日成氏の死後、息子の正日氏が遺体を、レーニンや毛沢東のそれのように「体制の守護神」として宮殿に永久保存することにし、正日氏が死ぬと、こんどは正恩氏らの手によってその遺体が同じ場所に置かれたのだった。

 二人の遺体は、世襲で続く金王朝と、直系の血を引く現3代目首領・正恩氏の偉大さを国民に視覚で教え込むためのオブジェなのである。

 経済が疲弊するなか、核実験やミサイル発射を強行し、国際的孤立を深めながらも、なぜ金王朝による支配体制は揺るがないのか。その大きな理由の一つが、「トップだけでなく、指導部中枢自体が親から子、孫へと世襲で受け継がれるシステム」だ。

 北の内部事情をよく知る関係筋が言う。

 「だからあの国は容易に崩れない。ロイヤルファミリーを中心に、支配層の中の支配層、約2000ともいう家系が一蓮托生、結婚で姻戚関係が絡み合った運命共同体的結束を固めている。政策路線の対立が深刻な政争に発展することはない。金王朝を守ることでは利害が一致する。世界史でも例をみないほどの血脈共同体がつくられているんだ」

 金正日時代には「指導グループ」という言葉が内部でよく使われた。「裏の国防委員会」とも呼ばれた。金総書記と側近たちでなる中枢集団を指す。最高指導機関7~8人と、対米、対中など対外関係、軍事、宣伝扇動、人事など主要政策の選択肢を上にあげる中堅幹部、副部長クラス30~40人で構成されていたという。

 この中堅幹部らは最高指導機関の面々よりも年が若く、表舞台に出ることはほとんどない。外国に出るときは名前も肩書も変える。非公然部隊のようなものだ。メンバーそれぞれが情報収集に必要な部下たちを抱え、動かしている。外国情報機関の調査でも、隠然たる影響力を持つ彼らの人的データはきわめて乏しい。

 この「指導グループ」を含む、金王朝維持のため重要なポジションの大半に、世襲で代を継ぐ「支配層の中の支配層」の人間たちが座っているのだ。

 北朝鮮を支配する家系とは、どういうものなのか。

 内部消息筋によると、3つの大きな家系がある。

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筆者

小北清人

小北清人(こきた・きよひと) 朝日新聞湘南支局長

朝日新聞入社後、大阪社会部、AERA編集部などを経て現在、朝日新聞湘南支局長。92~93年、韓国に語学留学。97年、韓国統一省傘下の研究機関で客員研究員。朝鮮半島での取材歴多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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