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何が本当に必要な「改革」なのか?(下)――改革派は「政治改革」の失敗を直視し、「小選挙区制度神話」から訣別せよ

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

 選挙制度改革により二大政党化を促した小沢一郎氏自身が、新党を作って二大政党化にブレーキをかけているのは、歴史の皮肉である。

 小沢氏が、2009年の総選挙時の民主党の理念や政策の正当性を主張し、日本未来の党、そして今では「生活の党」という新党を作って自らの理念と政策を主張するのは、理に適ったことである。

 しかし、さらに遡って小選挙区制による「政治改革」についてはどのように考えるのだろうか? 

 実際には、小選挙区制のために、小沢氏のこれらの新党も二大政党に抗して多くの議席を獲得するのは容易ではない。現に、日本未来の党は敗北を喫してしまった。小沢氏はこの小選挙区制の問題点を直視し、本当の「政治改革」には別の選挙制度の方が適していることを悟り、新党ではその主張を行うべきではないだろうか? 

 これは、小沢氏だけの問題ではない。民主党の問題でもある。敗北した民主党は様々な点でその敗北を総括し、根本的な出直しが必要となっている。3代の首相の個々人の責任を指摘するだけでは不十分である。選挙制度改革自体が失敗であり、それを再び改めること自体が必要であるということを潔く認識すべきではないだろうか?

 このような結果が出ているのに、なぜ改革派の中に選挙制度の修正を求める声が弱いのかと考えてみると、今までの改革派が「選挙制度改革≒政治改革」という思い込みに基づいて形成されてきたために、小選挙区制度論がいわば神話化し、自分たちのアイデンティティーのようになってしまっているからであろう。これは一種の思考停止状態である。

 だから、改革派は、「本来の政治改革」を実現するためには、「小選挙区制度改革=政治改革」という「小選挙区制神話」「政治改革神話」から訣別しなければならない。これが、改革派が本来の改革派として再生するための道なのである。

■選挙制度再改革という急務

 すでに総選挙前に、2009年の総選挙の「一票の格差」についての最高裁の違憲判決によって、選挙制度の改革が焦眉の急となっており、民主党は改革案(小選挙区の「0増5減」と比例代表定数の40削減、比例代表への連用制を一部導入)を示した。

 この案は当時の野党の合意を得られず、与野党は「0増5減」だけを成立させた。しかし、新たな選挙区の線引きが間に合わないために、実際には何の修正もなしに野田内閣は総選挙を行った。自民、公明、民主3党は2012年11月に、選挙制度改革と定数削減を今国会中にまとめることで合意し、それと引き替えに解散したのである。 

 ここにも野田内閣には大きな責任がある。総選挙自体が違憲状態のまま行われ、したがって小選挙区制を前提にしてもなお、民意が充分に公正に代表されないものだからである。だから、総選挙後にさっそく全国14の裁判所で、選挙区ごとの1票の価値の格差に関して、選挙の無効を求める訴訟が提起された。そして、3月6日に東京高裁で、7日に札幌高裁で違憲判決が出された。

 これは、2009年総選挙についての違憲判決から見て、予想されたことである。しかも、札幌高裁は昨年11月に成立した小選挙区を5つ減らす「0増5減」の法律について、「必要最小限の改定にとどめようとしたものに過ぎず、1票の価値の平等を定めた最高裁判決に沿った改正とは質的に異なる」と批判した。選挙の無効は認められなかったとはいえ、これらの違憲判決の重みを政治家たちは直視すべきだろう。

 だから、安倍政権は極力急いて選挙制度改革を行わなければならない。本来は、論理的にはその段階で民意を公正に代表すべく総選挙をもう一度するべきである。実際には、大勝した与党は議席を減らしたくないからこのようなことは決してしないだろうが、このような論理が本来は「正義」であるということは指摘しておきたい。

 だから、すぐにするべきなのは、「改憲」

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