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貧しいけど、愉しい共産国・キューバ(上) 孤独死のない社会

早房長治

 米国のフロリダ州の南、140キロのカリブ海に浮かぶ小国キューバは、食料の配給制が必要なほど貧しい国である。しかし、治安はよく、街は音楽と踊りにあふれ、国民は底抜けに明るい。医療と教育は無料、水準も高い。どうしてこんな社会が成り立つのか。昨年と今年、合計4週間の調査旅行から探った。

孤独死のない社会

 首都キューバのヌエボ・ベデロ地区にある「4月19日」総合診療所は朝から診療を待つ患者で混み合っていた。日本の病院と同様、半数以上は高齢者である。違いは待合室の雰囲気。非常に明るい。高齢者たちは患者同士だけでなく、医師、看護師、職員とも笑顔で言葉を交わしている。不安そうな表情はほとんど見られない。

地域病院の待合室。やはり高齢者が多い

 キューバの医療は3段階の構造で成り立っている。第1段階は医師と看護師のいる地区医院。周辺に住む約120家族の健康を日常的に管理(プライマリー・ケア)する。第2段階は30~40の地区医院を束ねる総合診療所。重症でない患者はここで治療し、出産も扱う。成人病、伝染病、精神病などに対するプログラムづくりと実行も総合診療所の責任で行う。癌や心臓、脳疾患など高度治療が必要な患者は第3段階の大学病院や総合病院に送る。

 キューバには孤独死は存在しない。地区医院のファミリードクターは周辺に住む高齢者の健康状態を熟知しているから、患者が危険な状態に陥る前に総合診療所か総合病院に送る。高齢者は医師の指示に従っていればいい。医療費は全額、政府負担であるので、支払いの心配をする必要もない。

 「4月19日」総合診療所は医師、歯科医師、看護師、検査技師らを中心に387人によって運営されている。このほか、多くのファミリードクターや大学病院の専門家がしばしば訪れて手助けする。各地の医大に通う2年生から6年生の学生も、大学でよりもむしろ診療所やファミリードクターの元で、実践を通して医学を学ぶ。

 高齢者医療は多岐にわたる。健康相談・指導や一般治療のほか、リハビリ、漢方やハーブを使った治療も行う。アジア的マッサージ(指圧など)については、40歳前後の女医が高齢患者に懇切丁寧に説明し、患者たちは目を輝かせて聞き入っていた。

高まる高齢化率

 カルロス・ロぺ診療所長は「この地域の高齢化率(人口に対する65歳以上の高齢者の割合)は28%強です。今後、さらに高くなります。したがって、この診療所を効率的に運営するには高齢者医療の成否がカギを握っています。私どもと高齢患者の合言葉は“120歳まで生きよう。それまで元気に暮らそう”です」と力をこめる。

喜々として歌う高齢者の合唱団

 広い意味での高齢者ケアは病院以外でも行われている。ハバナの旧市街にあり、16世紀に建設されたといわれるベレン女子修道院の回廊形式の2階は、

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