2013年03月19日
「本当に外交部長(外相)になりましたね」
中国外相に就任したばかりの唐家セン氏(現中日友好協会会長)が欧州の記者に囲まれているのを見ながら、当時、中国外務省アジア局長だった王毅氏と北京から出張していた私は、日本語で同じ言葉を繰り返した。
「本当に」という言葉が出た理由は二つあった。唐氏の前任の銭其シン副首相兼外相が共産党政治局員だったように、それまで中国の外相は革命に参加した大物ばかりだった。唐氏は日本語が堪能で日本にも知己の多い「知日派」だが、党歴は浅かったし、大使にもなっていない。だから、そんな重要ポストの候補に挙げられても、実際に就任するとはにわかに信じられなかったのだ。
二つ目は、「知日派」が外相になれるのか、という疑問が消えなかったからだ。抗日戦争勝利を誇る共産党が率いる中国の外交畑では、日本専門家は長く冷遇された。建国から1960年代までは、ロシア語使いが重用され、その後はずっと英語使いが有力だ。
唐氏も最初は上海の復旦大学で英語を学んでいた。その唐氏が北京大学で日本語を学ぶようになったのは、当時の周恩来首相が日中国交正常化を想定して日本専門家の養成を指示したからだ。
日中国交正常化は1972年に実現した。中国が改革開放を進め、それを日本が支えて、関係が密接になるにつれ、日本専門家の存在感も大きくなった。日本語のできる駐日大使は当たり前になった。
その一人である王氏が外相に就任したことで、正常化以来最悪ともいわれる日中関係はどうなるのだろうか。
唐氏よりも日本語が格段にうまく、知己もより多い王氏は大使着任後すぐに大使館近隣に住む日本人を大使館に招待したり、政治家や役人だけでなく学生らともしばしばつきあったりし、講演も数多くこなした。
日本の時代劇の主役のような顔立ちとこぼれんばかりの笑みで、女性ファンも増やしていた。だから、外相に就任した王氏への期待はとりわけ日本側で大きい。
私も王氏が「親日」だと信じている。日本の古典を愛読し、日本の山に登るのも好きだ。中国への心ない批判についても、辛抱強く耳を傾ける。日本人を本当に好きだと思う。
しかし、
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