薬師寺克行(やくしじ・かつゆき) 東洋大学社会学部教授
東洋大学社会学部教授。1955年生まれ。朝日新聞論説委員、月刊誌『論座』編集長、政治エディターなどを務め、現職。著書に『証言 民主党政権』(講談社)、『外務省』(岩波新書)、『公明党』(中公新書)。編著に、『村山富市回顧録』(岩波書店)、「90年代の証言」シリーズの『岡本行夫』『菅直人』『宮沢喜一』『小沢一郎』(以上、朝日新聞出版)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
しかし、既に動いている多国間協議に遅れて参加させてほしいと頼み込んだのであるから、腕力に物言わせる外交をする米国が、自国の利益を実現させるためこちらの弱みにつけ込んであれこれ注文をつけてくるのは当然だ。農業団体などの反対を理由に参加を先送りさせてきたことが、こういう形で不利益になる典型的な「下手な外交」である。
しかし、日米協議はこれから展開されるTPP全体の外交交渉の序章でしかない。本番はこれからだ。
日本国内の関心はコメをはじめとする農産物の関税など一部の分野だけに集中している。しかし、TPPは単にモノの貿易自由化だけでなく、投資、知的財産、政府調達、競争政策、外国人労働者受け入れなどヒト、カネ、サービスを含む幅広い経済活動をカバーしており、アジア太平洋地域の経済秩序の一大改革になりうる交渉となっている。
従って、それに参加しない選択は、次の時代の秩序形成に参加することを放棄し、自ら国を閉ざすことを意味する。
またTPPには経済新秩序形成とともに、日本にとってアジア太平洋地域の安定的な安全保障環境を作るという意味もある。米国と中国という二つの大きな国が、政治、経済、軍事面で同じルールのもとで活動するのであれば話は早いが、残念ながら両国は政治体制が全く異なり、それぞれが自分に都合のいいルールでこの地域に影響力を発揮しようとしている。
そんな中、TPPには、台頭する中国を前にして、日本が米国を中心にアジア太平洋の国々と幅広く連携する「同盟化戦略」という意味がある。
こうした戦略は安倍政権になって考え出されたのではなく、民主党政権時代にも当然、考えられていた。特に野田内閣は地域安保政策とTPPを連携させて米国とともに積極的に動こうとした時期があったが、残念ながら目に見える成果を出せないで終わった。
これらの問題を考えるときに忘れてならないのは、