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北朝鮮ミサイル挑発で見えた米国のすごみと本気度

谷田邦一 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

 北朝鮮による中距離弾道ミサイルの発射をめぐり、日米韓の政府関係者が気をもむ憂鬱(ゆううつ)な日々が続いている。韓国国防部は4月10日にも発射がありうると示唆していたが、その後、数々の「記念日」を迎えても、ミサイル部隊の目立った動きは伝えられていない(4月18日現在)。

 一体、どのような力学が働いているのだろう。北朝鮮が軍事挑発に踏み切るかどうかについて、国内の何人かの軍事専門家に聞いてみた。すると、どちらかというと発射に懐疑的な見方が多かった。

 理由の1つは、米韓両国はこの時期、毎年のように大規模な合同軍事演習を行っており、それに対抗して北朝鮮も同様の演習を見せつけたり、言葉による恫喝(どうかつ)を強めたりするのが恒例だからだ。北朝鮮軍は、過去にもしばしば弾道ミサイル発射をちらつかせる同種の訓練を実施したことがある。

 米韓両軍は、3月にコンピューターを使った米韓の指揮所演習「キー・リゾルブ」を行ったのに続き、上陸訓練などを伴う大規模な実動演習「フォール・イーグル」(4月30日まで)を実施中だ。米韓は毎度、「純粋な防衛のための演習」と釈明するのだが、今回はかなり刺激的で、ステルス戦闘機F22や核爆撃能力をもつ戦略爆撃機B52も参加、実動演習の規模は約21万人と過去最大規模にふくらんだ。「北朝鮮が緊張感を高めるのも理解できる」と苦笑する専門家さえいる。

 2つめの理由は、米国政府が今回、見せた強い政治的意思と軍事的姿勢にあるという。

 米海軍トップに知己が多い海上自衛隊の元海将は、「米国に向けて発射することはまずないと思う」と早くから否定的な見方を筆者に伝えていた。「今回は米海軍の真剣度が違う。彼らは本気で撃ち落とすつもりでいる。そうなれば北朝鮮の面目は失墜する。北朝鮮も誤算するほど愚かではないだろう」

 朝鮮人民軍の最高司令部が、戦略ロケット軍と砲兵部隊に「1号戦闘勤務態勢」を発令したと発表したのは3月26日。合同演習「フォール・イーグル」にB52戦略爆撃機を投入したことなどに反発し、最高レベルの戦闘準備に入ったと宣言したものとみられる。これをきっかけに、日米韓を攻撃するミサイル部隊が動き出したようだ。

 朝日新聞は4月4日付の朝刊で、「日本海側にミサイルを移動させ始めた」と報道。それにつられるように、日米韓3カ国で北朝鮮のミサイル部隊の動向が手厚く報じられ始めた。これまでに、北朝鮮の東部・元山や北東部・咸鏡南道に、グアムを射程に収める「ムスダン」(最大射程約4000キロ)や日本が射程に入るノドン(同約1300キロ)、韓国を狙うスカッド(同約500キロ)などを搭載できる移動式発射機4、5台が展開しているもようだ。

 北朝鮮が弾道ミサイルを発射したのは1993年のノドン以来、過去7回。衛星打ち上げを表明したり、山間部から移動式発射台を使って発射したりするなど様々だが、今回は過去のケースとの違いがある。

 これまでは多くが宇宙開発や国威発揚を名目に「実験」と見せかけていたこともあり、打ち上げ日時を公表したり、弾頭や弾体が落ちる危険区域を洋上に設定したりしていた。ところが今回は一切の事前予告がない。つまり、相手の不意を突く軍事攻撃を米国に仕掛けると表明したのと同じ意味合いになる。

 しかも労働新聞などを通じ、北朝鮮は沖縄や横須賀、三沢など、日本にある在日米軍基地の具体名まで挙げた。米国政府は敏感に反応した。平時と有事を厳密に区別し、自衛権の行使を制約している日本と違って、米国では国民の生命や財産が危険にさらされれば平時であっても自衛権を行使する国である。オバマ大統領は4月11日、「自衛権」という言葉こそ用いなかったが、ホワイトハウスで「アメリカは国民を守り、地域の同盟国に対する防衛義務を果たすため、すべての必要な措置をとる」とはっきりと北朝鮮を牽制(けんせい)した。

 その強い政治的意思の中身については、アジア・太平洋地域の米軍を指揮するロックリア太平洋軍司令官が、上院軍事委員会の公聴会で具体的に証言した。ロックリア氏は、現在の朝鮮半島情勢について、まず1953年の朝鮮戦争の休戦以来、最も緊迫した状態にあるとの認識を提示した。その上で、発射をちらつかせる北朝鮮の弾道ミサイルの迎撃について、米国や日本、韓国など同盟国が標的になった場合は撃墜する方針を明らかにした。

 「米国や同盟国を狙ったものでなければ迎撃しないが、ミサイルの標的や到達地点の見極めに時間はかからず、迎撃の判断を迅速に下すことは可能だ」

 「我々には、米本土、ハワイ、グアムを(ミサイル攻撃から)防衛するための信頼に足る能力がある。米軍と同盟国には、その準備ができている(We’re ready)」

 その裏付けとして、米海軍は西太平洋に2隻のイージス艦、中部太平洋に「SBX」と呼ばれる弾道追尾用の洋上レーダーを配備したという。米軍と連携するために、海自は日本海に2隻のイージス艦、韓国海軍も黄海と日本海に2隻のイージス艦を待機させている。加えて沖縄の嘉手納基地に展開する米空軍の電子偵察機の数々、日本列島の複数の自衛隊のレーダー網など手厚い戦陣を敷いている。

 「北朝鮮のミサイルが迎撃されたら、それこそ笑いもののタネになる。体制維持さえおぼつかなくなるかもしれない。北朝鮮の軍部もそれくらいのことはわかるだろう」

 先の元海将は、ロックリア氏の証言内容に「ここまで腹をくくっているのか」と驚いた。過去の北朝鮮のミサイル発射に際し、米第7艦隊の指揮官たちが見せた態度や姿勢とは大きな開きがあったからだ。北朝鮮が軍事攻撃を公言しているのだから、迎撃するのに何の躊躇(ちゅうちょ)も必要ないというすごみを感じたという。

 米太平洋軍トップの強い意思表明について、同軍に詳しい軍事戦略研究家の北村淳氏(米サンディエゴ在住)は「強制削減で国防費減額の悲哀を感じている米軍幹部にとって、自分たちの存在意義を示す好機にしたいという意気込みを感じる」と言う。

 「迎撃だけでは終わらないかもしれない」と危惧するのは ・・・ログインして読む
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筆者

谷田邦一

谷田邦一(たにだ・くにいち) 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

1959年生まれ。1990年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て2013年4月から社会部専門記者(防衛問題担当)。主要国の防衛政策から最新兵器、軍用技術まで軍事全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識が、現実の紛争地でどのくらい役立つのか検証取材するのが夢。

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