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米国は「歴史問題」に向き合うべき――他者の痛みへのまなざしは、ホームグロウン・テロの抑止剤となる

川村陶子 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)

 ボストン爆破テロの実行犯が逮捕された。北カフカス出身のムスリムの兄弟で、一家で米国に移住したこと、FBIが過去に接触した際には国際テロ組織等との接触が確認できなかったこと等が、本稿執筆時点では明らかになっている。だが、事件の詳細はまだわからず、今後こうしたテロをどう防ぐかを含め、米国政府に課せられた課題は多い。

 治安対策の強化や過激組織の取り締まり等、いわばハード面での対策は当然とられるであろう。しかしそれと並行して、いやそれ以上に筆者が重要だと考えるのは、テロリストを生みだす社会構造を変革するソフト面での対策だ。中でも、突飛に聞こえるかもしれないが、米国政府が自国の歴史問題に向き合い、取り組んでいくことが不可欠であると考える。

 ここでいう歴史問題とは、米国が超大国になった20世紀半ば以降今日まで、国際社会に自由や人権、民主主義を普及させてきた裏で、自らの価値と相入れないとされる「他者」を作り出し、そうした他者の側にいる数知れない弱い人々に暴力を振るってきた――少なくとも「他者」の側の人々の多くはそのように受け止めている――ことである。

拡大爆発があったボストン・マラソンの会場近くに集まり、祈りを捧げる市民たち=2013年4月20日、ボストン

 すでに指摘されている通り、ボストン爆破テロはホームグロウン・テロ、すなわち欧米諸国内の移民や留学生などが、自らのおかれた状況に対するやり場のない怒りを溜め込み、それを当該国社会あるいは米国を中心とした国際社会全般への憎悪と重ね合わせて、テロリズムという形で爆発させるものである。

 その意味で、実行犯ツァルナエフ兄弟の行動背景は、「9・11」同時多発テロ実行犯のモハメド・アタが、ヨーロッパ留学を経て過激イスラーム主義へ傾倒し米国への攻撃を行ったメカニズムとつながっている。

 アタももとはキャリアアップを目指して建築学を学ぶ「普通の留学生」であり、まじめでもの静かな人物だったという(詳しくは朝日新聞アタ取材班編『テロリストの軌跡――モハメド・アタを追う』草思社、2002年を参照)。

 なぜムスリムの移民からテロを志す者が生まれるのか。イスラームの聖戦(ジハード)思想が指摘されることがあるが、筆者はむしろ、たまたまムスリムであった「普通の移民」の個人的な怒りのスイッチを、米国社会に対する暴力へ切り替えさせる要因がどこにあるのかに、ホスト社会である米国の側が注意する必要があるように思う。

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筆者

川村陶子

川村陶子(かわむら・ようこ) 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)

成蹊大学文学部准教授。1998年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学(国際関係論)。国際関係における文化・文化交流に関心を持ち、対外文化政策や国際交流活動、〈ひと〉の視点でみた国際関係をテーマに研究教育活動を行っている。共著に『日本の国際政治学』(有斐閣、2009年)など。

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