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シリーズ「政治はネットで前進するか!?」第1回~ネット選挙運動解禁の本質は「政治家の1日を細分化すること」~政策男子部~

まとめ=間中健介(関西学院大学客員研究員)

 インターネットがすっかり身近になり、ようやく選挙にもネットが本格的に採り入れられようとしています。4月19日の参院本会議で、インターネットを活用した選挙運動(ネット選挙運動)を解禁する改正公職選挙法が全会一致で可決、成立しました。電子メールの利用制限は残るもののソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の使用が全面的に認められることになり、今夏の参議院議員選挙以降、現代のライフスタイルに合った選挙シーンが見られる模様となってきました。

 

 今後は、ネット選挙運動解禁によって得られた果実を国民それぞれが有効に使い、政治の進化発展、自由で力強い社会の確立に取り組んでいくことが求められます。

 

 政策男子部では今回、「政治はネットで前進するか!? 取材班」を結成し3回にわたって、政治の進化発展を促す観点からネット選挙運動解禁を考察していきます。

 

 初回となる今回はまず、取材班メンバーによる鼎談の形で、ネット選挙運動をめぐるこれまでの経緯と今後への展望、期待をまとめました。語り合うのは、コミュニケーションの専門家で国会事故調のソーシャルメディア広報を担当した鶴野充茂氏、One Voice Campaign発起人として政治家と有権者の関係性深化に尽力してきた原田謙介氏、政策メディア「日の出テレビ」を企画運営しマニフェスト大賞最優秀コミュニケーション賞を受賞した経験を持つ伊藤和徳氏。政策男子部部長で、関西学院大学客員研究員の間中健介がモデレーターとして参加。テキスト化しています。 

 

政策男子部「政治はネットで前進するか!?」取材班

鶴野充茂(ビーンスター株式会社 代表取締役)

http://beanstar.net/

原田謙介(NPO法人Youth Create 代表理事 OneVoiceCampaign発起人)

http://youth-create.jp/

http://onevoice-campaign.jp/

伊藤和徳(株式会社ワカゾウ 創業者/元・衆議院議員秘書)

http://www.wakazo.co.jp/

文=間中健介(関西学院大学客員研究員)

 

 

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 ――民主党政権下でも幾度となくネット選挙運動の解禁機運がありましたが、進みそうで進みませんでした。今回の動きをどう捉えますか?

 

 原田 安倍晋三内閣のスピード感と、それを受けた与野党のスピード感・本気度を感じました。自民党の平井卓也衆議院議員(衆議院内閣委員長)をはじめ、ネット選挙運動解禁を「民主主義を進化させるための時代の要請」と捉えて法案成立に努力した政治家が多数いたことが大きいと思います。メールを使った運動の全面解禁を認めるか否かで「自民・公明」と「民主・みんな」に二分されましたが、最終的には「時代を前に進めよう」という関係議員みんなの熱意が一致したのだと思います。

ネット選挙運動解禁と政治について語る原田謙介氏(左)と鶴野充茂氏=中野区

 One Voice Campaignでは昨年以降、合計4回、政治家を交えて大規模なイベントを行なってきました。当初は「悪口を書かれたくない」と訴える政治家の声が多数聞こえていましたが、徐々に「解禁すべき」という方向で議論がなされるようになっていきました。保守的とされる政党の都道府県連組織からも「ネット選挙運動解禁の意義や、解禁後の留意点についてレクをしてほしい」という相談を最近よく受けるようになっています。

 

 鶴野 国民の立場で言えば「選挙期間中に候補者と連絡が取れない現状」が異常ですので、解禁自体は自然な流れだと思います。

 

 一連の議論に接して私が最も気になっていたことは「誰の、何のための解禁が議論されているのか」ということです。「政治家の負担が増える」とか「なりすましをいかに防ぐか」という論点ばかりが注目されてきましたが、依拠すべきは「国民にどのようなメリットを提供するべきか」の観点です。「国民の代表を選ぶ方法としてどんな政策を導入することが適切なのか」という議論がもっと盛り上がってほしいと思って、一連のプロセスを眺めてきました。

 

 伊藤 「(韓国で行なわれた)“落選運動”が日本でも起こるのではないか」といったように、政治家にとっては集票面の有利・不利こそが大いに気になります。過去にスキャンダルなどで週刊誌を騒がせた経験を持つある政治家は参院選を戦々恐々としています。

 

 ――One Voice Campaignをはじめ、国民の側が声を上げてきたことが大きいと思うが。

 

 鶴野 国民の側が「自分たちの代表を選ぶ選挙にどんなことをするべきか」の観点で闊達に議論をリードし、政治家に提案を出してきたことの意義は本当に大きいと思います。

 

 話はそれますが、私は米国のコロンビア大学で国際広報を学び、コミュニケーションビジネスに触れてきました。米国では個人が政治家、行政機関、企業団体に対して盛んに声を上げます。消費者運動も非常に盛んですし、学校・職場・地域のいろいろな場面で政策を議論し、政治家に対して四方八方から主張をぶつけます。米国の企業経営者や政治エリートは、こうした四方八方からの追及を受けながらリーダーとして成長をしていきます。

 

 日本の国民は米国民ほど政府や企業に対してモノを言いません。国民の側からの発信が少ない状態では、政治家も行政も企業も成長しません。

 

 原田 モノを言わないことの象徴的現象が「投票に行かないこと」です。ボクは大学在学中の議員インターシップの際、政治家が本当に多忙で真剣な日々を過ごしていることを知りましたが、同時に政治全体で本気で日本の将来や次世代のことを考えた活動がどこまで行われているのか疑問を感じました。そんな事態を変えたくて学生団体ivoteを立ち上げ、全国の若者に投票行動を呼びかけました。若者のために真剣にアイデアを出し、責任を果たしてくれる政治家を産み育てたい。そのためには若者が投票に行き、政治家に若者の影響力を認識させないといけないのです。後輩たちには、理想的な候補者がいなくても投票所には必ず行ってほしい、と言ってきました。

 

 伊藤 政治家が意見を聞く人の範囲は、広いようで実は狭いのです。地元の集会に訪れる顔ぶれはいつもほとんど一緒だし、後援会組織は基本的に閉鎖性が高いです。四方八方からの声が届かない仕組み、もっとハッキリ言うと「声を届けない仕組み」があります。よほどの強い信念があれば別ですが、首長や議員に当選すると、どうしてもある種の権力構造の枠組みのなかに置かれてしまい、多様な世論に触れられない状態になってしまいます。

 

 ですから「ニコニコ動画」と「USTREAM」は貴重なインフラです。出演に拒否反応を示す政治家も少なくないですが、視聴者から書きこまれる批判や「茶化し」もまた貴重な資源と捉えて積極的に活用する政治家は確実に増えています。

 

 ――選挙カーとポスターだけの選挙ならば「財務省出身。30代。財政のプロ!」といった程度の情報を発信すれば良いのですが、ネット選挙時代においては時間帯ごとに、一挙手一投足が問われるようになります。

 

 伊藤 選挙期間中に政治家が何を価値基準にして行動を決めているのかがわかります。例えば以前、ある民主党議員が委員会審議に遅刻し、同時刻にツイッターへの投稿をしていたことが問題とされたことがありますが、賛否はともかく「この人はツイッターに投稿してから国会に向かう」という情報が国民に提供されることには意味があります。

 

 鶴野 政策主張はもちろんのことですが、行動パターンに関する情報が増えるのは良いことです。「この政治家は毎日必ず朝6時から演説し、その直後に投稿している」とか「この人は毎日夜に選挙日程を書きこんでいるが、当日になって急に変わることが多い」とか、はたまた「この人は他人の投稿に“いいね”を押さない」ということも把握できます。その他、アップしている写真を見れば撮影の腕前もわかるし、文章を見れば教養の性質や言葉遣いの特徴がわかります。こうした情報は投票行動を決める上で重要なファクターになります。ネットによって政治家の一日が細かく見え、全体を通してみるとはっきりとその人物像が見えてくるのです。

 

 伊藤 必ずしもすべての政治家がネットを重用すべきとは僕は思いません。SNSに慣れていない政治家が無理に“ネット通”になろうとして炎上するのは見たくないので、その人に合った選挙活動をしてほしいです。

 

 原田 どの政治家がどんな広報ツールを重視しているのかが一見して分かるポータルサイトがあると便利かもしれませんね。以前、選挙管理委員会に話しをしたことがありますが、各候補者がHP・SNS等の全アカウントを立候補の時に届け出て、選挙管理委員会がまとめて広報するべきだと考えます。候補者のことを知るために国民が何にアクセスをすればよいのかを把握できるようになると便利です。

 

 ――「広報を重視したい」という政治家のなかには、発信ばかり一生懸命になっていて、本来的な広報を重視していない人たちもかなりいます。ネット選挙運動解禁でこうした状況は変わるのでしょうか。

 

 鶴野 SNS時代においては「使えるネタ」を効果的にネット空間上に提供するセンスが問われます。情報の受け手に「これ面白い!」と思ってもらえれば、受け手が勝手に情報をシェアして広めてくれます。

 

 例えば、普段GmailやDropboxなどを利用している人は多いと思いますが、これらのツールを使うにあたり開発者からガイダンスを受けたことのある人はまずいないと思います。知人が使用しているのを見て「なんとなく使ってみよう」と思ったか、あるいは知人から勧められて使い始めるケースがほとんどです。ネットでは、情報は、人の紹介によって広がっていきます。紹介される情報が、「使えるネタ」です。

 

 「使えるネタ」の反対語は「スルーされるネタ」です。満を持して発信しても受け手が不在となる場合があります。

 

 ――発信したものが「スルー」されてしまっては、発信していないのと同じか、あるいはマイナスの効果になってしまいますね。情報が「使われる」ようにする過程に着目することが「広報を重視すること」ですね。

 

 鶴野 バラク・オバマ大統領陣営も、「Yes, We Can!」の2008年選挙時はどちらかというと発信型でしたが、2012年選挙時には「対話型」になっています。例えば、身分や政治的価値観の異なる数十の個々のウェブコミュニティにアプローチし、それぞれのコミュニティが関心を持つメッセージや動画をポストし、受け手の側でそれらのコンテンツが勝手に共有されていきました。

 

 ――ネット選挙運動解禁を契機に、日本の政治家も発信重視型から対話型に進化していくのではないかと期待したいですね。でも、政治は本来的に「国民との対話」によってなされるものなので、いまさらという気もしますが(笑)

 

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<プロフィール>

鶴野充茂(つるの・みつしげ)

広報・コミュニケーションの専門家として幅広く活躍。国会事故調の広報を担当するなど政策広報も詳しい。公社)日本パブリックリレーションズ協会理事。著書は25万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」など二十数冊。個人公式サイト(http://tsuruno.net)

 

原田謙介(はらだ・けんすけ)

東京東大学在学時の2008年4月に20代の投票率向上を目指し「学生団体ivote」を結成。2012年3月に大学卒業後も、「政治と若者をつなぐ」をコンセプトに活動を続ける。

内閣府子ども・若者育成支援推進点検・評価会議委員、「One Voice Campaign」発起人

 

伊藤和徳(いとう・かずのり)

2009年地方議会選挙に立候補し落選、2011年有志政治家が配信する政策メディア「日の出テレビ」設立運営。 現在、㈱ワカゾウにてネット空間における話題生成分析・予測を行っている。

 

間中健介(まなか・けんすけ)

朝日新聞WEBRONZA「政策男子部」部長。米系コミュニケーション会社スタッフ、「愛・地球博」広報スタッフ、国内大手広告会社ディレクター等を歴任。2012年より関西学院大学グローバル・ポリシー研究センター客員研究員を務める。中央大学ビジネススクール出身者のマラソンサークル「CBSランナーズ」メンバー

 

《政策男子部とは?》永田町や霞が関、地域の政策形成の現場を知り、本質的で具体性ある政策づくりに関わってきた20~30代の男子を中心とした「部活」です。社会を担う責任世代として、私たちは政策を練り、汗を流し、時代の潮流を作っていきたいと志しています。部活を通して、世代や立場を超えた多くの方々と出会っていきたいです。

 

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