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F-35採用の正当性と防衛当局の当事者意識を疑う(下)――中国軍は待ってくれない

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 次期主力戦闘機(FX)選定は本来、F-4EJの退役が迫っており、中国空軍の近代化によって、航空自衛隊の相対的な優位性が失われつつある現状を改善するために行われたものだ。

 つまり何年先までに新型戦闘機二個飛行隊を整備するという目標が必要だ。合わせてそのプロジェクトの費用がどの程度かかるかということも見積もっておく必要がある。

 つまり防衛省の装備調達は基本的には公共事業や民間の設備投資と同じだ。ところが森本敏前大臣も防衛省の佐藤正久政務官も、番組中(「F-35採用の正当性と防衛当局の当事者意識を疑う(上)――防衛省による「先軍政治」?」参照)の発言からはF-35A二個飛行隊がいつまでに必要かということを明言しなかった。いや、できなかったといってもよい。

 また仮に調達単価が当初予定価格の1.5~2倍になった場合でも、F-35は絶対に必要な機体であると述べるだけで、調達単価の上昇による取得の見直しは必要がないと言っているように聞こえる発言に終始した。つまり両氏ともいつまでにF-35Aの二個飛行隊の整備が必要であり、そのコストはいくらまでならアクセプトできるということを明言しなかった、あるいはできなかった。

 また国内生産するF-35Aの調達単価は輸入に比べてかなり高くなるはずだが、それがどの程度の金額に収まるかも不明である。

 筆者は番組冒頭でF-35A導入にかかる初度費(生産ラインの構築費やライセンス料など生産初期の費用)がどの程度かかるのかを尋ねたが、両氏とも明言できなかった。おそらくご存じないのだろう。

 装備調達の初度費の金額は2012年度から単年度に限って公表されるようになったが、これは財務省から催促されたため渋々防衛省が公開を始めたものであり、新規装備の予想額すら全く公表されていない。

 今年度予算の概算要求ではF-35Aの国内生産に対する初度費は約1200億円であったが、政府案ではこれが800億円ほどに削られている。つまり最低でも初度費は1200億円ほど必要であり、その場合一機あたりの単価は輸入品に比べて最低でも約30億円ほど高くなることになる。

 だがご案内のように初度費の総額は示されておらず、2000億円かもしれないし、3000億円かもしれない。米軍のF-35Aの調達単価は約150億円と見込まれているが、これも高騰する可能性は極めて高い。国内生産による機体の調達価格は、国内組み立てになるのでさらに高くなることは当然であり、もしかすると200億円以上になる可能性は否定できない。

 これでは納税者はF-35Aの調達がリーズナブルか否かを判断する材料を全く与えられていないことになる。国会でもこの点についての議論が真摯になされたようには思えない。これは民主国家では極めて異常であり、文民統制が機能していないといっても過言ではない。

 防衛省はもとより、空自の予算規模も決まっている。もしF-35Aの調達単価が大幅に高騰し、空自の予算が今後も同規模とすれば、何か他の予算を削らないといけない。

 たとえば新型輸送機C-2の調達数を大幅に削減するとか、間接人員を大幅に削減するとか、訓練費を削るとか、基地を閉鎖するとか何らかの対処が必要だ。

 しかもF-35Aを導入するならば、更なる空中警戒管制機(AWACS)や早期警戒機、電子戦機が必要だ。F-35Aはステルスモードで戦う場合、自分のレーダーを使用しないので、ネットワークを通じて情報を共有する必要があるからだ。これらの投資も必要なのだ。これで空自の予算はますますタイトになる。

 空自の予算を減らさないのであれば、陸上自衛隊の師団を減らすなどして予算を捻出するしかない。だが森本氏も佐藤氏も筆者のこのような問いには明確な答えを示してくれなかった。あれも必要、これも必要と言いながら、どれも削ることはできませんと言うのであれば、専門家や政治家としての資質を疑われて然るべきだ。

 防衛装備に関して、国会はその調達に必要な時期も(多くの場合、必要な数も)、プロジェクトの総額も議論されず、ただ導入の決定と初年度の調達予算と初度費だけが決められる。これはどんぶり勘定、出たとこ勝負であり、世界の常識から見ても、政府の予算のあり方としても極めて異常だ。

 筆者は番組中でこう述べた。道路やダムのような公共事業は(いくらインチキでも)需要予測を行い、何年か先までの増加する需要を吸収するためにこれだけの道路やダムを完成させる必要があり、そのためには(これまたいくらインチキでも)予算総額が示され国会で承認されてから着工される、しかし防衛装備については、調達期限や予算総額が国会で承認されないのに調達が開始されるというありようは異常であると。

 対して森本前大臣からは防衛装備と公共事業を一緒にするべきではない、という意見がでた。これは素直にとれば防衛装備は国会がその総額を精査することも、必要な時期を論じることも必要なく、防衛省が必要だと思えばいくら金がかかってもかまわない、時間もいくらかかってもかまわないととれる。また佐藤氏も同様な意見のように思えた。

 筆者からみればこれまた「先軍政治」としか思えない発言である。しかも「いつまでに必要」ということが重要ではないならば、当事者意識が欠如しているのか、あるいはその装備の調達自体が目的化しているのか、あるいはその両方である。

 軍備を整えるということは相手の動向を意識する必要があることは論を待たない。「軍隊」の装備調達では時間というファクターが無視できない。2年後に必要な装備が10年先に調達されても出し遅れの証文である。

 必要な時期までに装備が調達、戦力化できなければ、その分の抑止力が失われて戦争になる可能性も起きてくる。ゆえに軍隊では10年後に調達可能なベストの兵器よりも、2年後に調達可能なセカンドベストの兵器を調達するのだ。例えば米軍にしてもイラクやアフガニスタンでは将来に調達する歩兵用兵器を待つことなく、現在手に入る装備を手配して戦場に投入している。

 「中国の脅威」とやらはF-35Aの二個飛行隊が整備されるまで待ってくれるのだろうか。

 調達をいくらでも先延ばしにできるのであれば、そもそも中国やその他の脅威は存在しないということなる。

 F-35Aは2017年度から実戦化されるというが、それが可能でも当初は短距離空対空ミサイルは搭載できず、ステルスモードではウェポンベイ(機体内部の武器収納庫)内に中距離空対空ミサイルも2発しか搭載できない。通常、戦闘機は必中を期するために一度に2発のミサイルを同時に発射するにもかかわらずだ。

 将来的にはウェポンベイ内の搭載ミサイルを増やす計画があるにはあるが、いつになるかはわからない。つまりF-35Aはミサイルでは最大敵機を一機しか撃墜できない。

 それが嫌なら接近戦で機関砲を使うか、ステルスモードを使用しないで普通の戦闘機として使うしかない。

拡大着陸訓練をするFA18(スーパーホーネット)=2012年5月16日、東京都小笠原村の硫黄島

 いずれにしても対中国軍との有事の際は、攻撃側である敵は我が方より多くの戦闘機を繰り出してくることが予想される。

 だが、そのようなシナリオでは当面F-35Aの活躍はあまり期待できない。

 筆者は今からでも見切り千両でF-35の調達を停止すべきだと考えている。中古のスーパーホーネットなり、ユーロファイターを調達するならば極めて短期間のうちに二個飛行隊が編成できる。

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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