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 パキスタンの総選挙(5月11日投票)で大きく報じられたのは、政権与党に対する反政府武装勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)による爆弾テロ攻撃だった。

 死亡したり、誘拐されたりした被害者は約150人。TTPは米英からテロ組織に指定されており、活動拠点を置く北西部・部族地域は悪の巣窟のように見られているが、2001年9月の米同時多発テロ以前は、古くからのパシュトン文化を守る独立自尊の民族集団にすぎなかった。米国の対テロ戦によって過激化したTTPが拠点にする北西部・部族地域は、パキスタンが抱える「爆弾」だ。

 TTPが拠点とするのは、北西部のパキスタン国境部にある連邦直轄部族地域(FATA)と呼ばれる山岳地域。長野県と新潟県を合わせたほどの面積に、牧畜を主にして、330万人余りのパシュトゥーン人が住む。

 ここは英国が支配していた時代から、独自の慣習法(パシュトゥヌワレイ)に基づく自治が認められた地域であり、パキスタン議会が制定した法は直接適用されず、地域の長老会議(ジルガ)に重要な決定を委れている。中央政府の支配下に入ることを拒んできた結果、地域は経済発展から取り残され、住民の教育や保健環境は悪条件に置かれた。

 国境を隔てたアフガニスタンに住むパシュトゥーン人と民族的・文化的なアイデンティティを共有していることは言うまでもない。その特色を一言でいえば、男性中心の武人文化と言えようか。勇気や名誉を重んじ、客人を歓待する一方、もめごとの解決法における報復や復讐を否定しない。女性の大半はブルカ(ヴェール)を着用している。

 こうした独自文化が、多くの摩擦や事件を起こしてきた。

 2012年10月、女性が教育を受ける権利を公に主張していた14歳の少女、マララ・ユスフザイさんが、TTPによって頭を撃たれ、ロンドンに搬送された事件はまだ記憶に新しい。幸い命は取り止めたが、事件への抗議の声はパキスタン内外でわき上がった。学校教育制度は未発達で、イスラム教典を教える宗教学校が、多くの過激派活動家を生み出す場となっている。

 FATAは、麻薬や武器の密輸取引の拠点でもある。国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、人里離れた山岳部のあちこちに約1000ヘクタールのケシや大麻の畑があり、アフガンから運ばれた原料とともに現地でアヘンに精製され、カラチなどから世界各地に密輸されている。

 ほとんど知られていないが、FATA一帯は、 ・・・ログインして読む
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筆者

脇阪紀行

脇阪紀行(わきさか・のりゆき) 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

1954年生まれ。79年に朝日新聞社に入社、松山支局などを経て大阪本社経済部に。90年からバンコクのアジア総局に駐在。米国ワシントンでの研修を経て97年からアジア担当論説委員。2001年からブリュッセル支局長。06年から論説委員(東南アジア、欧州など担当)。2013年8月末に退社、9月から、大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム特任教授。著書に『大欧州の時代――ブリュッセルからの報告」(岩波新書)、『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)。

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