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国際教養大学の挑戦と人材育成について考える

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

 先の記事「『第三の矢』の核心は、労働移動支援型政策だ」では、安倍政権の打ち出した労働移動支援型政策へのシフトについて述べた。その中で、主に中途採用の人材についても言及したが、この問題を突き詰めていくと、大学での人材育成についても考えないわけにはいかない。

 その際、国際教養大学(AIU)理事長兼学長だった中嶋嶺雄氏(2013年2月に死去)が書いた『学歴革命 秋田発 国際教養大学の挑戦』(ベストセラーズ)が参考になる。

 中嶋氏は、現代中国政治が専門で、東京外国語大学学長も務めた学者。同氏は、海外の大学で教えたり、学長として大学経営に関わった自身の経験と、大学教育、経営、施設における理想をもとにAIUを創った。

 AIUの卒業生は、新卒の就職難の中、超一流グローバル企業に続々と採用され、ほぼ全員が就職し、多くのメディアでも取り上げられている。

 だが中嶋氏は、「就職率100%。これはあくまでも結果であって、本学(AIU)は就職目当ての大学ではありません。私たちの目的は、グローバル化する今日の社会のなかで、日本人としてのしっかりしたアイデンティティを持ち、国際社会を舞台に活躍できる人材を育てることなのです」とし、「就職のために特別のことをしているわけでは決してありません」と主張していた。

 そのためには、「英語をはじめとする外国語の能力を磨き、コミュニケーションを高めることが必要」であり、「しっかりした中身のある自分の言葉で発信していくことが求められます」と指摘する。その中身とは、人間形成の基盤となり、将来の行動規範となる、リベラルアーツ、「教養」であり、それをものにしていくことだという。

 大学で教えるべきものは、短期的に役立つ情報や知識ではなく、グローバル化の中で自分の人生をしっかりと生きていくための土台であるべきだということだ。

 筆者は大学で教鞭をとらせていただいているので、そのことはよくわかる。どんなに最新の情報や知識を学生に提供しても、今日のように変化が加速度的に早い状況の中では、それ自体はあっという間に古くなってしまう。その意味で大学は、最新の情報を提供することは不要とはいわないまでも、学生がその情報をどう獲得し、どう活かすかというスキルや能力と社会に出てから直面する課題に対処できるための基礎づくりをする場であろう。

 また、大学で学ぶ情報、知識は、学生が自分の考えを構築し、社会を生き抜くための素材に過ぎない。その意味では、学生は学んだことを覚えるよりも、それを批判し、自己研さんしながら、自分の意見を絶えず検証し更新していける力を獲得することが重要だ。

 さらにAIUは、

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