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憲法96条改正はなぜ問題外なのか?(下)――政権の提案の本質

木村草太 首都大学東京教授(憲法学)

8 そもそも憲法96条を改正できるのか?

 これまで論じてきたように、憲法96条の厳格な改正手続の背景には、権力を拘束しようという立憲主義の思想があり、安易な改正権限を与党に与えることは、大変な危険がある。そして、諸外国の例と比べて、憲法96条の内容が不当だとはおよそ言えない。 

 だからこそ、憲法の研究者をはじめとして、多くの法律家が憲法96条の改正に苦言を呈しているのである。とすれば、発議要件の過半数への緩和は「違憲な改憲」であり、裁判所が無効と宣言する可能性すらある。憲法改正には、衆議院、参議院、国民投票の他に、裁判所という重要なハードルがあるが、政権の提案は、この第四のハードルを越えられないかもしれないのである。

 前回指摘したように、憲法には、所定の改正手続を経ても変更できない内容、憲法改正限界があるのが普通である。日本の場合、明文の規定はないため、改正限界の範囲は、法律家や裁判所の解釈によって決まる。

 一般的な学説では、国民主権を天皇主権に変更したり、人権保障を停止したりする改正は限界を超えると言われている。また、保守派の国会議員の中には、天皇制の廃止は改正限界を超えるという人がいる(衆議院憲法調査会、平成13年11月8日、松浪健四郎議員発言)。

 この連載の(上)で、政権の提案は「クーデター」「反逆」「裏口入学」だとする憲法学者の指摘を紹介した。それぞれニュアンスの違いはあるが、要するに、政権の提案は、改正限界を超える違憲な改憲案だという趣旨だろう。これだけ有力な法学者がそろって違憲説を採ると、裁判所も、憲法96条の改正自体が違憲だという判決を出す可能性がある。

 また、憲法96条の改正自体は可能だとしても、それによって改正限界が増える可能性がある。緩和された手続では、平和主義の規定や天皇制の廃止など、憲法の条文の中でも特に重要な事項については、改正できないという解釈が成立する可能性もあるだろう。

 さらに、憲法96条が改正された場合には、しばらく改憲発議はできなくなると理解すべきだろう。なぜなら、 ・・・ログインして読む
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筆者

木村草太

木村草太(きむら・そうた) 首都大学東京教授(憲法学)

1980年生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学助手、首都大学東京准教授を経て現職。専門は憲法学。著書に『平等なき平等条項論』(東京大学出版会)、『憲法の急所』(羽鳥書店)、『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)、『憲法の創造力』(NHK新書)、『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)、最新刊に『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』(晶文社)、共著に『未完の憲法』(潮出版社)、『憲法の条件――戦後70年から考える』(NHK出版新書)、『検証・安保法案――どこが憲法違反か』(有斐閣)など。趣味は音楽鑑賞と将棋観戦。棋譜並べの際には、菱湖書・竹風作の彫埋駒を使用。

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