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ヘイトスピーチに抗する市民の政治(下)――法規制に先だって今わたしたちにできることは何か

五野井郁夫 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

 ヘイトスピーチをまき散らす差別団体の活動に対して、いったいわたしたちには何ができるだろうか。

 在特会らのヘイトスピーチについては、日本国内でもすでに3月16日の朝日新聞をはじめ、多くのメディアが警鐘を鳴らす意図のもとに報道を行っている。

 またすでに東京・新大久保などでは韓国のKBSやMBCなどが現場取材をしてニュースになっているとともに、CNNにも取りあげられ、在特会の醜態は、文字通り世界中にまで拡散された。さらには3月31日での大阪・鶴橋の排外デモでは太極旗に鉤十字を描いたプラカードを掲げた在特会の画像がKyodo News Koreanで紹介され問題となるなど、東京オリンピック招致など到底出来ないような国益を損ねる事態に発展している。

 だが、もっとも憂慮すべきは、在特会会長の桜井誠氏(本名を使用していない)が4月6日のインターネット生放送番組で視聴者からの「半島での有事の際には在特会は何をしますか? 自警団結成とか」という質問に対し「万が一テロが起きたときには、絶対に鮮人狩りやりますからね、誰がなんと言おうとやりますからね」という発言であろう (13:50-14:10)。この発言は明らかに常軌を逸しており、すぐさまCNNでDeclaration of Korean Hunting”として報道された。

 諸外国にはヘイトスピーチや差別に対する規制法もあるが、恥ずべきことに日本では野放しである。集団化する差別主義者にたいして、政府に頼って法制化を待ち望むこともひとつの選択肢だろう。だが「お上」の助けの前に、わたしたち一般の市民に出来ることもまだ多く残されているのではないか。

 そこでさまざまな対抗的な路上の政治の試みが、市井の人々によって現在なされつつある。在特会による新大久保デモに対して、社会人大学生の木野寿紀さんがネット上で「反韓デモに対する意思表示」を呼びかけ「仲良くしようぜ」と書かれたプラカードを掲げて、ヘイトスピーチ反対を訴えた。

 2月17日には150人規模で行われた差別主義者のデモに対し最初は30人ほどだった参加者は、その後の3月17日には150人、そして3月31日には400人へと増加し、レイシストのデモ隊側を圧倒的に数で凌駕するようになった。

ヘイトスピーチ反対の活動=2013年3月17日、 筆者撮影拡大ヘイトスピーチ反対の活動=2013年3月17日、 筆者撮影
 新大久保の韓流商店街による案内サイトである「新大久保コリアンタウンホットガイド」も木野さんの提案に賛同し、ネット上でバナーを出して応援をするようになった。

 さらに同じ31日には、1ネットユーザーである岡田ぱみゅぱみゅ氏らが私財を投じて、新大久保のK‐PLAZA街頭ビジョンで津田大介氏ら知識人9人による「排外主義に対するメッセージ」の広告を、在特会のデモが通過する時間帯に合わせて放映することで、街全体で排外主義に対するNOを突きつけた。

 在特会による路上の罵詈雑言に対してはさらに先鋭的な試みもなされるようになる。公道のヘイトスピーチ自体を街頭からの声と音でかき消して物理的に無効化し、ネトウヨが「娯楽」として楽しめないようにすることを試みる「レイシストをしばき隊」も結成され、ストリートからの音の力によるカウンターを開始した。

 これら勇気ある一般市民らによる反差別の取り組みは、韓国のMBCでも大々的に報道された。

 くわえて宇都宮健児前日弁連会長をはじめ、首都圏の弁護士12名が周辺住民、外国人の安全を守るため警察が適切な行政警察権限を行使するよう東京都公安委員会と警視総監に申し入れるとともに、東京弁護士会に対しても人権救済の申し立てを行った。

 政治家たちの側でも民主党の有田芳生参院議員ら11人の国会議員が呼びかけ人になり、3月14日には「排外・人種侮蔑デモに抗議する国会集会」が行われるようになった。次回は5月7日に開催される予定である。

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筆者

五野井郁夫

五野井郁夫(ごのい・いくお) 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

高千穂大学経営学部教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員。1979年、東京都生まれ。上智大学法学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助教を経て現職。専門は政治学・国際関係論。おもに民主主義論を研究。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。

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