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東日本大震災で防衛省の無人機はなぜ飛ばなかったか(2)――省内の食い違い

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 筆者の取材する限りでは、偵察用ヘリ型UAV(無人機)のFFRSもFFOSも使用されなかった理由は、信頼性が低く、墜落する可能性があった、つまり演習地では使用できるが、「実戦」で使用に耐えられる代物ではなかったということだ。

 福島原発の偵察でFFRSが使用されなかったことに関しては別の疑惑がある。中丸ひろむ議員は筆者の著書『国防の死角』を引用し、

 「報道関係者によると、当時の中江公人防衛事務次官はその(飛行できない)理由を、陸上自衛隊のUAVは搭載しているカメラの角度が十分ではない、と記者クラブのキャップクラスに説明しているみたいなんですけども、ちょっとさっきの答弁と違うと思うんですが、いかがですか」

 と追求した。これに対して徳地秀士防衛政策局長は、

 「当時のことにつきましては、先ほど私が申し上げた通り、FFRSの方につきましては、十分な飛行実績がなかったというようなこと、それから、あと原子力災害に有効な線量計といったものが装備されていなかったというようなことがございましたので、二次被害の防止という観点も含めまして、当時使用をしなかったということではございます」

 と、答弁し、中丸氏の質問に正面から答えていない。しかも筆者の取材したところ、FFRSは福島第一原発の偵察のため実際に現場に展開し、飛行プランまで作られたが使用されなかったのである。これが徳地防衛政策局長の答弁の通りの理由であれば、最初から現場に展開することはなかったのではないか。

 この徳地局長の答弁に対して中丸議員は、質問の趣旨は事務次官の認識と徳地局長の答弁が食い違っていることであり、答弁はこれに対する回答になっていないと再度質している。これに対して徳地局長は、

 「今の先生のご質問に対してちょっと直接にお答えする用意が無いので、大変恐縮なのでございますけども、当時の教訓を踏まえて、やはりFFRSというものをしっかり使えるようにするということで、先ほど申し上げたように、線量計といったようなものをつける……」

 と、答えて明確な答弁を避けている。

 徳地局長が答えられなかったのは上記の中丸氏の質問が事実だからだろう。防衛省の見解と事務次官の見解が異なっていたのだ。

 筆者は中江事務次官の情報に関しては絶対の自信がある。国会答弁は趣旨書が事前に出されており、防衛省側は事務次官、あるいは件の懇談会に同席した記者に事実を確認するだけでよかったはずだ。

 それが事前にできなくとも、答弁の最中に調べれば回答できるはずだ。実際、FFRSの開発費は答弁の最中に調査して答えている。徳地局長は事実を隠していた、と見られても仕方あるまい。

 ちなみに福島第一の原子炉偵察に際しては、FFRSの代わりにフジ・インバック社が開発した民間用UAV、B型が飛行し、撮影に成功している。B型のカメラは固定式だ。筆者はこの事実を同社の田辺誠治社長に確認している。

 また徳地局長の答弁では「線量計云々」とあるが、B型は原子炉偵察やNBC環境下での運用を前提としていない民間用のUAVで、通常は測量などに使用されている。対してFFRSは「大規模災害やNBC(核・生物・化学)環境下」における偵察のために開発された専用の機体なのだ。
「線量計云々」いう理由も事実ではないだろう。それが事実ならばB型も飛行できなかったはずだ。

 徳地防衛政策局長の答弁は虚偽である可能性が高いのではないか。仮に、国会の質疑において防衛省を代表した答弁で虚偽を述べたのであれば、これは由々しき問題だと筆者は考えるが、防衛省はそうは思わないのだろうか。

 問題は説明の食い違いだけではない。震災後の原発偵察が行われた当時、防衛事務次官ですら、UAVが飛行できなかった理由を知らされていなかったことも大きな問題だ。役所の中では政治家よりも事務次官の方が「偉い」。官僚たちは自分たちのボスは大臣や政治家ではなく、事務次官であると思っている。その事務次官にすら事実が知らされていなかったということは、当然防衛大臣や総理を含めて「たかが政治家」に伝えてはいなかった、ということだ。

 筆者は震災後、当時与野党の複数の政治家に派遣現場から入ってくる情報を逐次報告していた。彼らは筆者からの情報と防衛省からの「ご説明」は全く異なると言っていた。つまり、防衛省からの「ご説明」(政治家に対する説明)では「自衛隊はすべてよろしく対処しています。何の問題もありません」とのことだった。

 このUAVの問題は、筆者が報じたから日の目を見たが、筆者が報じなければ「なかったこと」にされていただろう。

 フジ・インバック社の田辺社長は、UAVは落ちるのが当たり前で、開発時だけではなく、実際に運用しながらも落ちる原因を洗い出し、例えばそれがメカニカルの問題なのか、ソフトウエアの問題なのかといった原因を追及し、一つずつその原因を潰していくことで信頼性を高めていくことが必要だ、と筆者に説明した。

 その上で田辺社長は、防衛省の場合、配備後に適切な予算を組んで「墜ちること」を前提としてのフォローアップを怠っているとも述べている。つまり作ったら作りっぱなしで、それが実際に使用できるレベルまで熟成させることを怠っているのはないか、と指摘しているのだ。

 「実戦」未経験のFFRSに対してフジ・インバック社のB型は測量などで多くの「実戦」を経験し、信頼性を高めているとも言える。信頼性が低ければ測量の仕事はできない。つまりはお金にはならない。 

無人機のB2=フジ・インバック社提供 拡大無人機のB2=フジ・インバック社提供
 対して自衛隊のUAVは、 ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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