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都議選における共産党「躍進」と参院選における「夢想」ーー左右分極化は回避できるか?

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

共産党「躍進」は危機を救うだろうか?

 都議選では、前回の結果と比較すると、自民党(59議席、21議席増)と公明党(23議席、増減なし)が圧勝して民主党(15議席、39議席減)や日本維新の会(2議席)が敗北した一方で、みんなの党(7議席)以上に共産党が増加して第3党(9議席増、17議席)に躍進した。これは、多くの人びとの予想外の結果だったので、注目を浴びている。これはどのような意味を持っているのだろうか?

 まず思いつくのは、民主党への失望の結果、与党に批判的な人々が他に投票する先を見つけることができず、共産党に投票したのではないか、という可能性である。都議選ながら全国的な論点を考えれば、改憲問題や原発政策、そして環太平洋経済連携協定(TPP)参加交渉などがその代表的な論点であろう。

 共産党から言えば、これらに対して最も明確に反対してきた政党として、共産党が評価されたということになろう。そして、“社民党や生活の党が伸びていないことを見れば、共産党は他の野党とは違う独自の路線を非妥協的に貫いてきたことが国民に評価されたのであり、今後もこのような独自路線を貫徹するべきだ。共産党の「躍進」が、改憲などの日本の危機を救う”というような主張がなされそうである。

 しかし、本当にそうだろうか?

 菅原琢氏がこの選挙結果を(民主党への政権交代直前の)2009年選挙と比較した分析によると(菅原琢氏のブログ「311後の日本の政治論壇」における「2013年東京都議選の簡単なデータ分析」)、自民党の相対得票率は「25.9%(前回)→36.0%(今回、以下同様)」、絶対得票率は「13.9%→15.4%」であり、「自民党はどん底に比較して着実に支持を回復していることは確かだが、世論調査の内閣支持率や政党支持率の印象からは程遠い」。

 他方で、共産党の相対得票率は「12.6%→13.6%」、絶対得票率は「6.8%→5.8%」だから、相対得票率こそ1パーセント上昇しているものの、意外なことに、逆に得票数(707602→616722)は減少し絶対得票率は1%減少している。だから、投票率の下落のために、組織選挙が中心の共産党が相対的に有利になり、民主党や日本維新の会などが候補者を多く立てすぎたので、共産党が議席を倍増させた、というのである。

 菅原琢氏は「今回共産党は、17人中8人の候補が最下位で当選している。維新の会やみんなの党が多数の候補を擁立し、民主党候補から票を奪い、共産党が相対的に浮上した」と分析している。

 この分析を見れば、与党と同様に共産党もその「勝利」や「躍進」に過度に安心してはならないことになる。共産党について言えば、そもそも全国では東京のようには勝てない可能性が高い上に、他の野党の候補者擁立戦略や野党間の協力によっては、やはり議席を今回のように増加させることが困難になるからである。

 都議選の結果を大きく左右したのは、棄権の多さである。投票率は43.5%に過ぎず、前回の54.49%から10%以上も下落し、戦後2番目の低さだった。東京都に関する論点が不明確だった上に、多くの人びとが、期待できる政党を見いだせなかったので棄権したのであろう。その中で、共産党支持者は、改憲などの動向に敏感だから、棄権せずに投票したのだろう。この結果、低投票率の中で共産党の相対的得票率が高まり、共産党の「躍進」をもたらした。

 けれども、共産党に対する投票数自体はむしろ減少していることに注意しなければならない。共産党自体の好感度が高まり、人気が出ているというわけでは必ずしもないからであろう。だから、参議院選挙でも同じように「躍進」できるかというと、必ずしもそうとは言い切れない。参議院選挙では投票率は都議選より高いだろうし、他の野党は選挙戦略を再考し、候補者乱立の愚を減少させようとするかもしれないからである。

左右分極化と民主主義の危機

 この選挙において注目すべきなのは、2012年末の総選挙以来、政治の左右への分極化が進んでいるということであろう。

 総選挙では、民主党が大敗して自民党が勝利し、日本維新の会は躍進して第3党となった。安倍自民党は従来の自民党よりも右寄りになっているし、日本維新の会は石原慎太郎・共同代表のような極右的要素を含んでいるから、民主党の大敗によって中道右派が後退した半面、極右や右翼の方向に政治が変化したことになる。

 これに対し、今回の都議選では橋下徹共同代表の失言問題などで日本維新の会が失速し、共産党が第3党に躍進した。総選挙では日本維新の会が第3党となったのに対し、都議選では共産党が第3党となったわけである。つまり、極右的要素の進出にはブレーキがかかったが、かつてよりも右寄りの自民党と、左翼的な共産党が「躍進」したことになる。民主党は海江田万里代表に代わって、中道右派から中道へと移行した感があるので、中道が敗北した半面、右翼的な自民党と左翼的な共産党が勝利したことになる。

 だから、今の日本の政党システムにおいては、中道が衰退し、右翼ないし極右と左翼が伸張しているということになる。これは、左右の分極化が進んでいるということであり、政党システムにおいては分極的政党制への変化が見られることになる。

 政党システム論(サルトーリなど)においては、分極的多党制は政党システムの危機や、民主主義の崩壊につながる危険性が高いとされている。今の日本の衆議院においては、小選挙区制中心の選挙制度が取られているので、必ずしも分極的多党制とは言えないにしても、棄権率の多さは民主主義に対する失望を表しているので、やはりこのような危険性が高まっていると言わざるを得ないであろう。

 たとえば参議院選挙後には、ここまでは相対的には順調に見えたアベノミクスが失敗して経済的な危機が生じたり、近隣諸国との領土紛争がさらに昂進して武力衝突が生じたり、改憲へと与党が猪突猛進することも考えられる。このような事態においては、さらに左右の分極化が進み、政党システムや政治経済が不安定になることが考えられるのである。

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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