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空自のF-35は中国が導入するSu-35に対抗できるか(中)――日本が不利な理由

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 筆者は去る4月23日のBSフジのプライムニュースの「次期主力戦闘機F-35A 日本が選択した戦略」と題した回に、森本敏前防衛大臣、佐藤正久防衛大臣政務官とともに出演したが、そのとき森本前大臣はSu-35はさほど脅威ではない、という見解を示した。だがそれは極めて楽観的で「敵」を侮っているように見える。

 森本氏はあまり技術的なことにお詳しくないようだ。過日、プライムニュースでF-22がテーマの回に出演した時、番組冒頭でF-22の模型を持ち、水平尾翼を指して「ここが動くんです。これがF-22の空中機動力の高さの源です」などと述べたが、これは誤りだ。

 現代の戦闘機の尾翼は動いて当たり前だ。森本氏が航空自衛隊にいた頃の、昔の戦闘機の水平尾翼は固定されており、最後部の昇降舵だけが動くものだった。対して現在の戦闘機の尾翼はより高い機動力を得るために全体が「動く」のは当たり前だ。

 恐らく森本氏は、F-22のエンジンノズルが上下に動く偏向ノズルを採用しており、これで高い機動性が実現していることと尾翼全体が動くこととを勘違いしていたのだろう。

 また森本氏はかつて雑誌のインタビューで、空自はサイドワインダーなどというベトナム戦闘時代の旧式のミサイルを使っていると発言したが、車のモデルチェンジと同じで名前はサイドワインダーでも現在のものは当時のものとは別物だ。これは現在のカローラをさして、トヨタはカローラという70年代の旧式車輛を未だに生産しているというようなものだ。

 このように技術的な知識があまりない大臣が最終的に次期戦闘機のFXを選定したことは不安に思って当たり前だろう。

 近年の戦闘機はアビオニクス(電子機器)や電子装備、ネットワーク能力などで性能が決まる。その点、ロシア機は西側に比べて大きく劣るといわれてきた。だが、今回の取材ではSu-35に関してはイスラエル、フランス、南アフリカ、インドなどがコンポーネントを提供していることが判明した。

 前回ご案内のようにSu-35のレーダーはRCS(Radar cross-section:レーダー反射断面積)が3m2程度の標準的戦闘機などの目標なら400km、RCSが0.01m2程度のステルス戦闘機や巡航ミサイルも90kmから探知できる。

 さらに主翼にLバンドレーダーを搭載する計画もある。これは複数箇所にレーダーを備えることによって、三角測量の要領で高精度な探知が可能になる。これはステルス機に対しても有効だとされている。

 これらの点を考慮すれば、日本が導入するF-35Aが絶対的に有利だとは言えない。F-35Aはステルスモードでは中距離ミサイル、AIM-120 C AMRAAMを2発、短距離ミサイルを2発しか搭載できない(その他機関砲を搭載)。

 しかも当面、F-35のソフトウエアは短距離ミサイルが運用できないブロック3Iだ。通常、戦闘機は確実を期すために一つの目標に対して2発のミサイルを発射する。このためF-35が中距離ミサイルで撃墜できるのは最大1機、ということになる。AIM-120 Cの射程が約50キロだ。中距離ミサイルは射程が80~100キロでも必殺を期すためにはより接近して撃つ必要がある。これまでの戦訓からはその距離は40~60キロといわれている。

 だが、ここまで接近するのであればSu-35に探知される可能性は決して低くない。また短距離ミサイルや機関砲を使用する場合、基本的に有視界になるので既に相手に探知されていることになり、ステルス機の優位性は失われている。

 対してSu-35は中距離ミサイルを最大6発、短距離ミサイルならば最大12発の搭載が可能だ。その上、もともとの航続距離が長い。

 しかもSu-35はフランカーファミリー(su-27系)の持ち味である空中機動力が極めて高い。大出力のエンジンを持ち、加速力も高いし、エンジンのノズルは360度の偏向可能で、これまたより高い空戦能力を与えている。 

スホーイSu-35=ユナイテッド・エアクラフト・コーポレーション提供拡大スホーイSu-35=ユナイテッド・エアクラフト・コーポレーション提供
 筆者はパリ航空ショーで同機の飛行デモを見たが、過去のフランカーシリーズよりも高い機動力を持っているように見えた。

 仮にF-35が2発の中距離ミサイルを発射し、ヒット・エンド・ランで逃げるにしても、その場合、ステルス性はより低くなる。

 ステルス機は全面が同様にステルスなのではない。正面が一番ステルス性が高く、側面や上部のステルス性は低く、エンジンノズルから排気ガスを出す後部は一番ステルス性が低い。

 後部から追尾された場合、敵機の発する赤外線を探知するIRST(赤外線捜索追跡)システムで容易に探知される。

 Su-35のIRSTは通常機と対峙した場合は50キロ、追尾の場合は70キロと言われているが、Su-35がロシア製ではなく、フランス製のコンポーネントを使用している可能性もある。その場合はさらに遠くから、恐らく探知能力は100キロ程度は保有している可能性が出てくる。先に述べたようにSu-35のアビオニクスなどには西側の製品が使用されており、IRSTにもそれが使用されていないという保証はない。

 F-35が逃げる際にさらに不利なのは速度だ。最大速度はマッハ1.6に過ぎない。しかもアフターバーナーを使用するので、あっという間に多大な燃料を消費する。対してSu-35は最大速度がマッハ2.25で、米軍のステルス戦闘機F-22と同様にアフターバーナーを使用しないで超音速で飛行できるスーパークルーズ能力を有している。

 中距離ミサイルを撃ち尽くしたF-35が多数のSu-35を撃ち漏らしたならば、その後の展開は極めて不利になると言わざるを得ない。むろんF-15JやF-2など他の戦闘機と共同作戦をとるだろうが、数的にはそれでも劣勢である。

 想定される戦闘は陸地から遠く離れた洋上だ。 ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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