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コリアンタウンで起きていること、憎悪は暴力に変わった

朴 順梨(パク・スニ) ノンフィクションライター

 韓国料理店や韓流グッズの店が軒を連ねる東京・新大久保のコリアタウン。この街で2009年頃から月に1度程度、韓国人や在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチ・デモが行われている。主催しているのは「在特会」(在日特権を許さない市民の会)をはじめとする、「行動する保守」を標榜する自称「愛国者団体」だ。昨年8月の李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領(当時)の竹島上陸をきっかけに客足は減少したとはいえ、日曜の昼間は全国から女性客が足を運ぶ。そんな白昼に、デモ隊は聞くに堪えない言葉をがなり立てている。

AJWフォーラム英語版論文

「在日コリアンに特権」というデマ

 在特会は、「税金や公共料金が減免・免除される」「優先的に生活保護が受けられる」などの「特権」が在日韓国・朝鮮人にはあるとし、「それを許さないこと」を目的に2006年末に設立された。

 本当に在日に特権はあるのか。たとえば在特会は、「生活保護受給者の多くは在日」と主張するが、2012年時点で生活保護受給者の97%は日本国籍者だ。

 在日韓国・朝鮮人は出自ゆえに、現在に至るまで厳しい就職差別を受けてきた。それは、本名ではなく、通称名で採用試験を受けて内定した在日韓国人青年が、「一般外国人は雇わないと社内規定にある」とする会社側から採用無効通告を受けた『日立事件』(1970年)を見てもわかる。就職差別の結果、安定した仕事に就くことができないまま高齢になった在日が、生活保護の申請をするのはやむを得ないことだ。

 「在日に特権がある」などということは、デマに過ぎない。しかし彼らはそれを信じ、断罪することに血道をあげているのだ。

命の危険を感じた

 「あんな奴ら、無視すればいい」。日本人はもちろんのこと、当事者である在日韓国・朝鮮人たちですら、ずっとそう思っていた。私自身も、視界に入れなければ何とかなると思っていた。

 「良い韓国人も悪い韓国人も どちらも殺せ」

 「朝鮮人 首吊(つ)レ毒飲メ 飛ビ降リロ」

 今年2月9日、在特会と友好関係にある団体主催のデモで掲げられていたというプラカードを目にした人の多くが、あっと息をのんだ。殺人教唆とも取れる言葉が、平然と踊っていたからだ。

 デモ終了後、10~20人の参加者が大久保の街を練り歩き、看板を蹴ったり、ヤジを飛ばしたりした。断罪意識から生まれた憎悪は、暴力に変容した。

 「自分や周りの人達が、命の危険にさらされるかもしれない」。私は恐怖を感じた。もう、見て見ぬふりはできないと思った。

 この直後から、差別反対の意思表示を呼びかける声があがり始めた。中心となったのは、通信制大学で学ぶ会社員の木野寿紀さん(30)だ。木野さんは在特会の活動を4年ほど前から知っていたものの、それまで何らかの反対行動に出たことはなかった。木野さんはいう。

 「K-POPファンの中高生が在特会に怒り、幹部のツイッターアカウントを炎上させたんです。レイシズム反対というより、好きな歌手が侮辱されたことに怒ったのでしょう。しかしその姿を見て、抗議活動をするなら今だと思った」

 「仲良くしようぜ」。日本語と韓国語、そして握手するイラストが描かれたプラカードをヘイトスピーチのデモ隊に向けて掲げることを、木野さんはツイッターなどで呼びかけた。2月17日、賛同して集まった30~40名が、沿道からプラカードをかざした。その中に私もいた。

 「キレイごと言ってんじゃねえ!」。怒号があがった。しかしデモが開催されるごとにプラカードを掲げる人は増えていった。さらに横断幕を掲げたり、メガホンでデモ隊のシュプレヒコールに応戦したりと、カウンター(反対)の表現方法も多様化した。3月31日に行われたヘイトスピーチ・デモへのカウンター行動には、400人以上の一般市民が集まった。片隅から見ていた私も、胸がすく思いだった。

 この頃から新聞やテレビなどでも取りあげられるようになり、5月31日にはNHKが、朝のニュース番組で特集を放送した。「無視すればいい」は、「無視できない」に変わり始めた。

地元と行政の対応が課題に

 課題もある。デモ隊とそれに反対する多くの人が道路に集まった結果、「営業妨害だ」と不快感を示す商店主がいる。この問題をどう乗り越えるか。

 在日韓国人3世の弁理士、金展克さん(38)は、街の人達の話を聞く活動を続けている。彼も2月9日のデモがきっかけとなり、3月からデモ反対の署名活動を始めた。新大久保でフィールドワークを続ける大学教授らと協力して、商店主の日本人や韓国人を対象に、在特会とはどういう団体なのか、誰を攻撃対象にしたデモなのか、どんな反対行動が取られているかについての勉強会も行っている。

 「カウンター活動に対して、地元を置き去りにしているのではないか、という批判があったので、デモ反対の署名活動をきっかけに街の人と話をして、理解を深めたいと思いました。お店のスタッフだけで決断できないことも多いし、地元の人からの明確な意思表明は、まだありません。しかし思っていた以上の人が署名に協力してくれたことは、うれしい誤算でした」

 新宿区役所も、「デモの告知や緊急時の対応を検討する」ことに、関心を寄せ始めている。

 6月16日には在特会の幹部や、それに反対する人たち計8人が暴行容疑で逮捕された。対応を「検討」しているうちに、大きな事件が起きる可能性だってあるのだ。

 市民はすでに立ち上がっている。商店主は日本人であっても韓国人であっても、自分達の街で今、何が起きているか、無関心を決め込まずに直視して欲しい。そしてデモを止めさせるためには何が必要かを、ともに考えて欲しい。

 行政は、たとえば、悪辣(あくらつ)なヘイトスピーチのデモだと判断した時点で、集合場所となる公園の使用許可を出さない、デモ隊が暴徒化して逮捕者やけが人が出ないように、住民や買い物客、商店に注意を促し警備を強化する、などの対応をとる時期に来ていることを、一刻も早く理解して欲しい。

    ◇

朴 順梨(パク・スニ) ノンフィクションライター。在日韓国人3世として生まれ、その後、日本国籍を取得。早稲田大学卒業後、テレビ番組製作会社を経て、情報誌などの編集・執筆に携わる。共著に『韓国のホンネ』(竹書房)。

(2013年7月16日)

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