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これからの平和を担う若い人びとへ

若い世代が選挙に行くと何が変わるのか

五野井郁夫 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

 「これからの平和を担う人びとへ」
 (E.H.カー著、原彬久訳『危機の二十年――理想と現実』岩波文庫、2011年、序文)

 これからの平和を担う若い人びとへ。

 若いみなさんが思っている以上に、いまわたしたちがおかれている現実は深刻です。なぜかと云えば、今回の選挙結果のいかんによっては、わたしたちをして「なんじ殺すなかれ」を可能にせしめてきた平和憲法の改憲基準が引き下げられてしまい、この国が戦争の出来る国になってしまうからです。

 被災地の震災復興がいまだならず、仮設住宅に暮らしている人が多くいるのに、改憲をして戦争の出来る国にするなんて、順番があべこべですよね。戦争の出来る国って何やらぶっそうな国ですけど、リアリティが沸いてきません。どうしてでしょうか。

 このぶっそうさを隠すために、かつてずる賢い政治家と学者たちは、「普通の国」という表現を流行らせました。戦争が出来ることが「普通」であり、いまの日本は「異常」だというイメージを植え付けてきました。社会権等は日本人の手で作った条文だったのに戦後憲法を「押しつけられた憲法」とレッテル貼りしたのと同様の手口です。

 自民党は憲法96条改憲をして憲法改正のハードルを下げ、平和憲法である日本国憲法9条を書き換えて、いまの自衛隊を「国防軍」にしたいと明言しています。

 今回の選挙結果によって改憲されたのち「国防軍」が創設されて、もし戦争になったとき、そしてそのさい「国防軍」の人手が足りなくなったとき、まず戦場にかり出されるのは、若いみなさんです。

 冒頭に引用した歴史家のE.H.カーに倣(なら)って過去の歴史上の事実に照らし合わせてみると、先の戦争、すなわち太平洋戦争当時、国民兵役は20歳から40歳まででした。戦況がさらに悪化した1943年からは徴兵年齢は19歳に、のちに17歳へと引き下げられ、また兵役の終了は45歳に引き上げられました。

 つまり、もし仮にひどい戦争になって徴兵制が復活した場合、年寄りの政治家たちは、17歳から40歳ないし45歳までの若いみなさんに戦場に赴けというのです。

 当の政治家たちの平均年齢は50歳以上が衆議院ではこのところつづいていますし、たとえ50歳未満の議員でも兵役逃れが出来るような議員特権も当然作るでしょうから、かれらが従軍することはないでしょう。

 石原慎太郎衆議院議員なども、都知事時代に尖閣諸島をめぐって自作自演で東アジア情勢を悪化させておいて、それでいて「日本は核兵器を持て」、「日本が生きていく道は軍事政権を作ること」、「徴兵制もやったらいい」と主張していますが、現在80歳の石原議員が戦場に行くことは、まずありません。

 そして、彼の口調からは、まるで石原議員が太平洋戦争への従軍経験があるかのように錯覚しがちですが、彼は先の戦争に従軍したことはありません。彼の暴言のツケを払うのはわたしたち若い世代なのです。

陸上自衛隊の戦車に試乗した安倍晋三首相=2013年5月拡大陸上自衛隊の戦車に試乗した安倍晋三首相=2013年5月
 同様に、戦争を知らない戦後生まれの安倍晋三首相はこの前のニコニコ超会議で軍服を着て戦車に乗っていましたが、自民党改憲案で国防軍を創設しろと主張しています。

 でも、戦場に行くのは彼ではなく、やはりわたしたち若い世代なのです。

 若者を大事にせず使い潰すことは、国家の将来を揺るがせにする問題ですが、「保守」を自称する政治家の多くがこれを無視しています。

 「残業代の廃止」や「日雇い派遣禁止の撤廃」といった、経営者にとっては都合が良い主張のいずれもがブラック企業を利するだけで、若者の労働や生活環境はさらに不利になるだけです。

 子どもや若い人は国の宝ですが、「子どもにもっといいものを食べさせたかった」と書き置きを残して、母子が餓死するという痛ましい事件があったのは、世間がアベノミクスに浮かれているのと同じ今年に入ってからであることを忘れてはなりません。

 現在までこの社会は、若者や子どものほうを向いていないのです。

 このように若い世代は、明らかに多くの政治家になめられています。聞こえてくるのは相変わらず景気回復と高齢者や高所得者への優遇政策だけです。日本学生支援機構による名ばかりの「奨学金」で借金を抱えたまま仕事も見つからない若者のことなどまるで知らん顔です。なぜでしょうか。

 政治家が若者のほうを向かない理由の手掛かりのひとつは、総務省「第46回衆議院議員総選挙における年齢別投票状況」のデータにありそうです。先回の衆院選での投票年齢は、20~24歳が35.30%で最も低く、ついで25~29歳が40.25%、他方65~69歳が77.15%と最も高く、それに70~74歳の76.46%が続きました。

 もし、みなさんが政治家ならどの年齢層を狙うでしょうか。答えは歴然としていますよね。理由は単純で、政治家の多くは投票に行かない世代など見向きもしないのです。

 こうした傾向を分析した研究もあります。東北大学大学院経済学研究科の吉田浩教授らのグループは、衆・参両院の国政選挙について、年齢別投票率と国の予算の統計を収集し、両者の関係を分析しました。

 その結果、20歳から49歳まで若年世代の投票率が低下するにしたがって、将来の国民負担となる国の借金が増加し、社会保障支出も若年世代よりも50歳以上の高齢世代の方に多く配分され、若年世代に不利となっていたという関係が確認されたのだそうです。さらに、この分析結果を用いて計算すると、選挙棄権により若年世代の投票率が1%低下すれば、若年世代1人当たり年間およそ13万5千円分の損失となる試算結果になったというから驚きです。

 このようにして、長く政権の側にいた政党と政治家たちは、自身たちが勝って再選されやすくなるように、ゲームのルール、すなわち政治の構造自体を自分たちにとって有利に作り替えてゆくのです。改憲の発議は現行では衆参両院で3分の2以上の賛成が必要ですが、これを過半数に引き下げて手続きを緩和しようとするのも、この典型例でしょう。

 なお、憲法改正にかんして、アメリカ合衆国では上下両院の3分の2以上の賛成に加えて、4分の3以上の州議会での承認が必要なのですから、過半数たる2分の1に引き下げるなど言語道断です。

 では、どうすれば50歳以上の有権者ばかりを優遇する政治家が、若い世代のわたしたちを無視できなくなるでしょうか。どうすれば議員たちの若者に対する不誠実な行動を変えることが出来るでしょうか。

 答えはとてもかんたんなことです。それは若い世代も、高齢者世代に負けじと投票に行くこと。上述のように、いまの年齢別投票率は20~24歳で35.30%、25~29歳で40.25%ですが、この投票率を、65~69歳の77.15%や70~74歳の76.46%よりも高くして、逆転させようではありませんか。

 そして、組織票がものをいう各業界団体とは違って、いままで「若者は投票なんてしないから、無視して使い倒してもいい」と高を括っていた政治家たちを震え上がらせてやりましょう。もちろん、投票者数の母集団は高齢者の方が多い。けれども、若いみなさんの投票率が上がれば、いくら政治家といえども無視をすることは出来ません。否が応でも若い世代に配慮した政策運営をせざるを得なくなります。

 これまで若者たちに不利な政治を行ってきた政治家たちにとって一番大事なのは、わたしたちの生活ではなく、かれらが議員として再選されることです。そしてその票田の多くは高齢世代でした。そうであるならば、わたしたち若い世代はそんなかれらが恐れおののくくらいの投票率で、わたしたちの力を見せつけて、議員たちをわたしたちの側に振り向かせてやろうではありませんか。

 そして、若いわたしたちの一人ひとりの一票で、政治を変えましょう。なぜって、これから日本社会を担うのは、そしてこれからの平和を担うのは、他でもないわたしたち若い人びとなのですから。

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筆者

五野井郁夫

五野井郁夫(ごのい・いくお) 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

高千穂大学経営学部教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員。1979年、東京都生まれ。上智大学法学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助教を経て現職。専門は政治学・国際関係論。おもに民主主義論を研究。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。

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