2013年07月18日
筆者は、2013年の年初に書いた「アベノミクスと『ダモクレスの剣』――『経済再生』という夢想の後に待ち受けるもの」(2013年1月7日)で、アベノミクスという「経済再生」の夢想にひたっていると、剣ヶ峰の参議院選挙で、「ダモクレスの剣」が落ちてきて、「改憲」などにより「国家体制」の変革が生じる危険性があると指摘した。
いよいよ、その時が数日後に迫ってきたのである。
参議院選挙では公示直後から自民党の優勢や与党が過半数を獲得するという見通しが伝えられ、選挙戦でも大きな変化はないように見える。もしかすると、自分が票を投じても大勢に影響はないと考えて、棄権してしまう人もいるかもしれない。
けれども、それは正しくない。与党が過半数を獲得することは確かだとしても、もう1つの重要な問題がある。参議院で改憲政党が3分の2を獲得するかどうか、である。「日本維新の会」の勢いの衰えにより、96条を中心にする改憲に非常に積極的な自民党と維新の会で3分の2を得ることは難しくなった。それでも、「自民党+維新の会+みんなの党」ないし「与党(自公)+維新の会+みんなの党」なら、どうだろうか?
みんなの党は、いまは維新の会とは距離を置いているが、もともと改憲には積極的なので、この論点に関しては自民党に賛成しないとは限らない。公明党は改憲に慎重ではあるが、与党にいる以上、改憲に同意しないとは言い切れない。だから、この二つの組み合わせで3分の2を上回れば、次の参議院選挙や衆議院選挙まで改憲を支持する政党が両院の3分の2を超えることになり、改憲の発議が可能になるのである。
参議院で3分の2を確保するためには、162議席以上が必要になるが、選挙予想を参考に、改選議席の中で自民党が70議席前後(非改選50議席)、公明党が10議席前後(非改選9議席)、維新が6議席前後(非改選1議席)、みんなの党が6議席(非改選10議席)くらいとすると、「自民党+維新の会+みんなの党」だと143議席、「与党+維新の会+みんなの党」だとまさに162議席ちょうどになる。
だから、「自民党+維新の会+みんなの党」だと3分の2の確保は難しそうだが、「与党(自公)+維新の会+みんなの党」の場合は充分に可能性がある。
つまり、与党が過半数を獲得することは確かだとしても、これらの組み合わせによって改憲が可能になる3分の2が実現するかどうかはまだわからない。特に「与党(自公)+維新の会+みんなの党」の場合、当選議席の1-2議席の違いが3分の2に達するかどうかを分けるかもしれないのである。
だから、どの政党に投票するにしても、有権者には選挙権を行使してもらいたい。参議院選挙は、やはり剣ヶ峰であり、その結果は、今後の国家の運命を左右するほど極めて重大なのである。
この選挙は、ネット選挙が解禁されて初めての国政選挙であり、その意味でも注目されている。筆者は、2012年末の衆議院選挙の直前に、「なぜインターネット選挙は解禁されなかったのだろうか?――選挙期間に言論の自由が縛られる非民主主義国・日本」(2012年12月14日)という文章を公表し、もっとも民主主義が機能すべき選挙期間において、ネットを通じての言論の自由が制限されるという逆説的な事態を批判した。
ルソーの有名な言葉になぞらえて、「日本の人民は自由だと思っているが、それは大間違いだ。彼らが自由なのは、議員を選挙しない間だけのことで、議員を選挙する間には自由ではなくなる。そして、議員が選ばれるやいなや、日本人民は奴隷となり、無に帰してしまう」という問題を指摘したのである。
だから、安倍政権下でネット選挙が部分的にせよ解禁されたことは、基本的に高く評価したい。民主主義の促進に積極的なはずの民主党政権下でこれが実現せず、右翼的な自民党政権において実現したというのは逆説的で、これも民主党政権の怠慢を象徴するだろう。
もっとも、今回のネット選挙部分解禁では、なりすましメールなどの問題を回避するために、有権者のメールによる選挙活動は禁止されている。有権者は、ブログやフェイスブックで特定候補や政党に投票を呼びかけることはできるが、メールでそうすることはできないのである。
だから、候補者や政党の側は基本的に自由にネット選挙が行えるのにもかかわらず、有権者の手はまだ部分的には縛られている。この点では、ネット選挙解禁はまだ充分ではない。主権者たる国民はまだ、選挙期間中に自由にメールで意見を言うことはできないからである。
つまり、民主主義の観点から見ると、今のネット選挙解禁は、候補者にとってのネット選挙解禁に力点が置かれており、主権者たる人々のネット使用については制限されている。これは、代表者を中心に考える間接民主主義の発想に対応しており、人々の政治参加を促す参加民主主義の観点からすれば望ましくない。
現に、これまでの選挙戦を見る限り、候補者や政党がしばしば多くの資金を投じて流す広報的なネット選挙の方が、有権者の市民としてのネット活用の新展開よりも際立っているように思われる。そして、このように候補者がネット選挙を行うだけでは、有権者はいわば市場で商品を買う時のように、候補者や政党のネットにおける情報を広告のように見て、その中から好きな候補者や政党に投票するということになってしまいかねない。これは、いわば「観客民主主義」の形態である。
だから、民主主義の発展を可能にするためには、ネット選挙は基本的には全面的に解禁すべきである。もっとも、ネット選挙には陥穽もあるから、次稿では、それを回避してネット選挙の意義を発揮するために、より深い思想的考察や提言を行うことにしたい。
しかし、ともかくも、部分的ながら解禁されたネット選挙の方法を用いて、この歴史的な参議院選挙でも行えることがある。
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