2013年07月23日
『官僚が使う「悪徳商法」の説得術』(講談社+α新書)というおもしろい本がある。
同書は、官僚が国会議員を説得し、誘導し、ある場合には「洗脳」して、いかにして政策案を実際の政策にするかを、実例に基づき具体的に説明している。つまり、国会議員が知らないうちに、官僚主導で政策が形成されているかが具体的に示され、そのテクニックが可視化されている。まさに国会議員は、官僚のマインドセットのなかで考え、行動させられているのだ。
これらの指摘は、筆者の経験からも首肯できるところだ。
だがよくよく考えてみると当然だ。それは、経済産業省の元役人で、渡辺喜美行革担当大臣(当時)の補佐官として公務員制度改革で辣腕をふるい、現在は政策工房を主宰し、政治コンサルとして議員や政党などをサポートしている原英史さんと、竹中平蔵経済財政担当政務秘書官や中川秀直自民党幹事長特別秘書を務めた真柄昭宏さんが著者だからだ。
つまり、国会議員を手玉に取ろうとする側と、大臣や国会議員を守る側とのそれぞれの経験をもとに官僚の説得術を分析し、対処法を論じているから、説得力と妥当性があるのだ。
このことは別言すると、官僚が国会議員を陥落させ、自分たちに有利な政策を形成していくテクニックや官僚主導の政策形成を、政策形成に関わったことのない国民などに対して可視化していることになる。つまり、国会議員や民間人が、官僚のテクニックに誘導されることを回避できるポイントを教授していることになる。
では、官僚は具体的にどのようなテクニックを使っているのだろうか。同書は、官僚のさまざまな「説得術の奥義」を紹介しているが、参考までにその一部と対処法を紹介しておきたい。
まず、「相手が『数字』『具体例』『比較』をいい出したら疑え」という対処法。
官僚が政治家に説明する際に使う典型的な資料は、文章で簡単に説明した一枚紙と「ポンチ絵」のセットだ。その資料では、「数字」「具体例」「比較」が重要な要素になる。
一般論で説明した資料では説得力がないので、たとえば、「全国の消費生活センターへ苦情相談が過去1年で○万件。過去3か月に限れば、苦情相談全体の3割を占めています」などのように、数字で説明するわけだ。この数字があれば、その政治家が、他者から質問されても、自信をもって説明できる。
しかも、全体像を示す数字だけでなく、具体例も示す。たとえば、「70歳のおじいさんが、ちょっとした稼ぎになるといってだまされて、1000万円もの被害を受けた」といったかわいそうな事例を示して、同じことが全国でいかにもたくさん起きているように提示する。
さらに、「他国との比較」や「他分野の比較」を入れて説明することで、他国や他分野ではすでにその政策や制度が導入されていることを示して、説明する。
そうすると、説明を受けた方は、「そうか。それじゃ、日本でも当然必要か」となるのである。
だが、実際にはこれらの数字、具体例、比較は、実は説明する側(要は官僚)に都合のいいものだけを提示している。先に結論があり、そこへ誘導するために使っているからだ。
その意味で、「相手(官僚)が『数字』『具体例』『比較』をいい出したら疑え」、ということになるのだ。
次にもう一つ、「『選択肢』の提示は要注意」という対処法について。
セールスには、商品を一つだけ売るのと、いくつかの選択肢を提示して、そのなかから選ばせるケースがある。しかし、後者は、一見顧客に選択肢を委ねるようにみせかけて、実はある特定の選択肢がすでに決まっていて、そこに誘導されるようにしているのだ。これは、
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