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米中の接近は、日本の孤立を意味しない

三船恵美(駒澤大学教授)

 米国のオバマ大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席による非公式首脳会談が、6月7日から8日にかけて、米カリフォルニア州のサニーランズで行われた。米中の最高指導者が2日間に8時間もshirtsleeves summit(上着なしで行う実務的な会議)を行ったことは、史上初のことだった。両国政府は両国関係が深まったと、会談の成果をともに強調した。

 この会談をめぐり、日本の一部のマスメディアは「異例づくしの会談」と騒ぎ立て、「米中接近」を懸念する声さえあった。ハーバード大学のジョゼフ・ナイ教授は、ニューヨーク・タイムズ紙に「(1972年の)ニクソン大統領と毛沢東主席による会談以来、最も重要な米国の大統領と中国指導者による会談」と語った。しかし、それは過大評価ではなかろうか。

成果に乏しい首脳会談

 米国との「新しい大国関係」をつくろうとしている中国側にとっては、米国と並び立つ大国として中国が台頭していることを国内外にアピールできたことで、比較的満足のいく成果を得られるものとなった。しかし、米国側にとっては、「失敗」とまで言わなくとも、「成功」とは呼べるものではなかった。新たな前進は何一つ公表されなかった。

 オバマ大統領は習主席に対して、中国が発信源とされるサイバー攻撃への対応を求めたものの、習主席は中国政府や人民解放軍の関与をこれまで通りに否定し、「中国も被害者で、真剣な措置が講じられることを希望している」と繰り返しただけであった。

 サイバー問題のルール作りで両国は合意したものの、習主席と人民解放軍との関係を考えれば、実効性のあるルール作りを中国側が進めていくことができるのかは疑わしい。

 北朝鮮の非核化をめぐる米中合意についても、従来以上のものではなかった。あえて成果を挙げるならば、米中首脳会談によって北朝鮮問題の解決が米中間の共通目標とされたことで、韓国がスタンドプレーに走れなくなった点だけであろう。

衝突回避をねらう中国

 中国の目指す「新しい大国関係」は、米ソ冷戦時代のようなゼロ・サム的な対立ではなく、米中間の互恵と共存の関係である。また、習主席がオバマ大統領に「広い太平洋は米中両国を十分に受け入れる余裕がある」と会談で語ったことから推察できるように、「新しい大国関係」の背景にあるのは、米中2大国によるアジア太平洋地域の共同支配を目指す中国の外交方針である。

 つまり、「新しい大国関係の構築」の背景にあるのは、新興パワー(中国)と既存パワー(米国)の衝突を回避しようとする中国のねらいである。このほど終わったシンガポールでのアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で、中国軍の代表団は、海軍が米国の排他的経済水域で活動していることを明らかにしている。「海洋強国」に邁進(まいしん)する中国の動勢をにらみながら、米国は中国に対する中長期的な戦略を構築しているのである。

 安倍晋三首相は、6月9日に放送されたNHKの「日曜討論」で、米中首脳会談について、米中の協力関係の強化は世界の平和と安定に資すると評価しながらも、「日米関係は同盟関係であり、第7艦隊の拠点が日本にあるからこそ、米国はアジアのプレゼンスを守ることができる。これは決定的な差と言ってもいい。米国が、日本から上海に基地を移すということはありえない」と強調した。また、国防費の大幅削減という事態に直面している米国にとって、日本ほど巨額な米軍駐留接受国支援費(Host National Support)を支払ってくれる国はない(2010年の日本の財務省資料によれば、韓国の5.23倍、ドイツの2.82倍)。米国にとっての戦略的な位置付けは、中国と日本では明らかに違う。

 日本では、1972年のニクソン・ショックになぞらえ、再び日本を頭越しにする米中外交の再現に日本が備えなければならない、と警告する論者がいる。しかし、「米中関係の発展」イコール「日米関係の衰退」という、一方の利益が他方の損失になるゼロ・サム的な視角から日米中関係を論じるべきではない。米国の同盟国や友好国にとって脅威の要因である中国が著しく台頭するなかで、米国の同盟国である日本のプレゼンス後退は、アジア太平洋地域における米国の安全保障戦略から考えれば、米国にとって望ましくないからである。

 「米中接近」イコール「日本の孤立化」と情報操作する報道には注意しなければならない。

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三船 恵美(みふね・えみ)

専門は中国外交。早稲田大卒。米ボストン大学大学院国際関係学修士、学習院大学で博士号を取得。中部大学助教授をへて現職。

 

 

(2013年7月22日)

本稿は朝日新聞AJWフォーラムから収録しています

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