開沼 博(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員)
2013年08月01日
――山本太郎さんの当選についてどう思いますか。
「そうですね……。複雑な思いです。私の周りでは『太郎さん、太郎さん』って希望を見出している人がたくさんいるんです」
――周りっていうのは?
「震災後、震災とか原発についての集会とかTwitter・Facebookで知り合った人たちです。そういう人たちは『よかったね、福島のことを代弁してくれる人が国会にいるっていうのはすごいね』って言ってきます」
――ただ、それが「複雑だ」と。
「そうですね。地元では強く拒絶反応を示す人もたくさんいます。避難してきている人の中には、もう地元に残る親ぐらいしか地元とは連絡をとっていないという人もいるけれど、私は比較的福島の地元の友人ともやりとりをするんで、そういうことはよく聞きます」
――拒絶しない人もいる?
「それもいるとは思います。なにか新しいことをやってくれそうだと」
――そういう人は、彼の福島についての言動の内実を知っていて?
「彼の演説のYoutubeとかを熱心に見て『放射能のことをちゃんと言ってくれている』ってファンになっている人はいます。ただ、もちろんそんなことは一切知らない人もいる。福島に住んでいるからって、原発・放射能のこととか政治のこととか考えている人ばかりじゃないですから」
――むしろ、福島県外の人が福島のことを語ろうとするとなぜか「原発・放射能を政治問題として語ってばかり」になりますよね。
「そうなんです。結局『フクシマ、フクシマ』と言うけれど福島の自然とか風土の話とかしても何の興味もないようだったり」
――それで、「なにか新しいことをやってくれそうだ」っていう感覚っていうのは、例えば石原裕次郎のお兄ちゃんだとか、たけし軍団だとか、テレビで見たこともあるし何か新しいことをやってくれそうなっていうのと同じような?
「そんな感じですね。自分の立場が危うくなろうとも戦ってくれているように見えるところもいいんでしょうね」
――なるほど、一方で「福島の代弁者なんかではない」と。少なくともそう感じている人がいるわけですね?
「はい。人によって言うことはそれぞれですが、要は、福島で生きている人が200万人近くいるのに、そのこと自体を否定するような話をするからって。『東日本女子駅伝を中止に追い込みたい』って言ったことからはじまって、ふざけたことばかり言ってるな、と」
――当選直後のインタビューでの福島の農作物についての言及が差別的なのではないかという話がネット上でありましたね。
「ただ、あれは、Twitterで部分的に切り取られてそう言われちゃっているところもあると思います」
――実際、発言内容と異なるフレーズが山本太郎さんの言葉としてTwitterで拡がりましたね。
「そうなんです。ああいうことをすると、結局『太郎さんを潰そうとする原発推進派・放射能安全派はやっぱり嘘つきだった』って信頼を失いますよ」
――だとしても、あたかも、福島の一次産品の多くが法定の基準値前後のものばかりであり、それがすなわち汚染されているかのように受け止められかねない言い方は、米の全袋検査の結果をはじめ、様々な公表されている事実を踏まえないものだいうことは確かですよね。
「それは、そうですね」
――そういった様々な情報提供がすでにされ始めてデータもある程度揃ってきている上でも、基準値の安全性や現在の検査体制が信用出来ないとか、そもそもなんとなく気持ち悪いからそれを選ばないという自由は、それはそれで尊重されるべきと思います。
ただ、「選ばない自由」の尊重を実現したいからといって、「選ぶ自由」を抑圧する必要はないでしょう。「選ばない自由」を尊重してもらいたいならば、それと同様に「選ぶ自由」も尊重していかなければ反発は起こります。「福島産品の生産・流通自体を止めて、国が全部補償しろ」という話は、一見お上を敵にした正義感あふれる態度のように見えるかもしれませんが、当事者からしたら生業や慣れ親しんできた暮らしを奪う陵辱の言葉です。
この2年間で、どれだけ生産者たちが安全確保のための放射性物質のチェック体制を整えてきたのか。その苦労と努力の実状を知っていたらそう簡単には言えないのではないかと思います。地元で話を聞いていたらそういう感覚は理解できませんか。
「それはよくわかります。ただ、外から福島に興味をもっている人の多くは、そういう細かい地元の人の感覚はそもそも知らないし、興味ももってないんだと思います」
――にもかかわらず「福島のために」「福島を考えよう」とも言いますよね。
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