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22DDHは護衛艦=駆逐艦か?(下)――なし崩し的な拡大解釈

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 前回は22DDHを護衛艦=駆逐艦であるとすることには無理があると説明した。

 防衛省・海上自衛隊は我が国の戦闘艦は水上戦闘艦である護衛艦と、水中戦闘艦である潜水艦しかない。ゆえに水上艦である22DDHはヘリ空母ではなく護衛艦であるとしている。

 このようにおおざっぱな分類をしている国は他にはない。他国では水上戦闘艦は巡洋艦、駆逐艦、フリゲート、コルベットなどと細かく分類されている。22DDHは諸外国の軍事的な常識からみれば明らかに多目的空母であって、巡洋艦や駆逐艦などの水上戦闘艦艇ではない。全く別の艦種だ。

 22DDHを「護衛艦」と称して導入することは、実質的には防衛大綱に定められた護衛艦48隻を減らしてヘリ空母を導入するようなものだ。

 これが問題ないのであれば、英国が建造中の正規空母であるクイーン・エリザベス級を輸入、採用しても「護衛艦」だから手続き上問題ない、ということになる。

22DDHの進水式=提供・海上自衛隊拡大22DDHの進水式=提供・海上自衛隊
 防衛省は既存のDDHの後継としてヘリ空母が必要なことは分かっていたはずである。であれば、自衛艦の分類を改め、新たに「ヘリ空母」という区分を作り、大綱にも反映させるべきだった。

 恐らくは「空母導入」が政治問題化することを恐れ、そのような正当な手続きを踏まずに、護衛艦として押し通すという安易な道を選んだのだろう。

 確かにその方が摩擦も少なく便利だっただろう。だがそれは、なし崩し的な拡大解釈であり、事実を積み上げて規制や規則を骨抜きにするという、我が国の政治や官僚組織の常套手段だ。また納税者を欺く行為でもある。

 いろいろな理屈を積み上げて正当化しようと、駆逐艦と称してヘリ空母を調達したことに違いはない。それは政治が決定した大綱に対して、海上幕僚監部がその内容を無視し、書き直したことに等しい。

 だが政治側、そしてマスメディアも国会の予算審議においてこれを全く問題にしてこなかった。16DDHの予算要求に際してはかなりの反発があると予想され、当時の石破茂防衛大臣と防衛省はあらゆる質問を想定し、回答を用意していたが全く質問がなく拍子抜けした、と石破氏は後に筆者に語った。22DDHの予算要求に際して疑問を呈したメディアは筆者の知る限り「週刊金曜日」だけである。

 このような「軍部」の独断専行を政治やマスメディア、世論が追認する状態で、文民統制が機能していると言えるのだろうか。筆者は基本的に改憲論者だが、このような未熟な政治、メディアの未熟な状態で改憲をすることは極めて危ういと考える。政府がより現実に合わせた憲法にさらに安易な拡大解釈を重ねることで、日本が対米追従のための戦争に巻き込まれかねない。

 先にも述べたが、諸外国では水上戦闘艦は巡洋艦、駆逐艦、フリゲート、コルベットなどと排水量や武装によって分けられている。これには国際的な基準があるわけではない。ある国のフリゲートは別な国の駆逐艦と同じ排水量だったりする。だがフネの大中小は分かりやすくなる。

 海自はDD(Destroyer:護衛艦)、DDH(Destroyer helicopter:ヘリコプター護衛艦)、DDG(Destroyer Guided missile:ミサイル護衛艦)、DE(Destroyer Escort:護衛駆逐艦)などと分類しているので、一応すべて駆逐艦、ということになるが、DEは排水量からすれば国際的にはフリゲートと認識されている。

 イージス護衛艦であるあたご級は排水量が7750トン(米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦とほぼ同じ)、最新鋭の汎用護衛艦であるあきずき級は基準排水量が5000トンで、対して最小のDEであるあぶくま級は2000トンだ。

 あたご級とあぶくま級では約3.9倍も排水量が異なる。いわんや22DDHの排水量は1万9500トン、あぶくま級の実に約10倍も排水量が大きい。排水量だけならば22DDHは巡洋艦である。

 これらをひとくくりで、諸外国にはない「護衛艦」という名称で呼ぶのは、納税者に対する一種の情報操作であり、不誠実だ。

 仮に陸自が1/4トントラック(ジープ)も、3.5トンの中型トラックも、搭載重量50トンの特大型運搬車も、単に「トラック」でひとくくりにしたら問題だろう。また96式装甲車などをトラックと称して調達したら大問題になるだろう。

 護衛艦は年々増大しているが武装はたいして変わっていない。確かにフネの大きさが大きくなれば冗長性が増し、居住性も良くなるなどの利点があるが、護衛艦の隻数が大綱で決められているだけに、できるだけ大きなフネを作った方が得だという心理が海自にあるのではないか。

 また護衛艦はガスタービンエンジンを搭載し、速度も30ノット以上に統一されているが、その高速を実現するためには強力なエンジンを搭載するので調達コストがかかるし、燃料代もかさむ。

 海自は長年シーレーン防衛を主任務としているが、シーレーンの船団防衛ならば現在の護衛艦のように大きく、速度の速い船は必要ない。むしろ重要なのは隻数だ。船団護衛ならばせいぜい2000~3000トンのフリゲート、あるいはそれ以下のコルベットでもよい。

 タービンエンジンで30ノットも出るフネは、特に低速での燃費が悪く、低速でのエスコート(護衛)には不向きである。低速航行性能と、航続距離を延長するためにタービンエンジンとディーゼルエンジンの混合、あるいはディーゼルエンジンを採用するべきだ。

 そもそもシーレーン防衛自体がイリュージョンである。国交省によると、戦時に我が国の国民が一定の生活水準を維持するためには、少なくとも日本船籍の商船450隻、日本人船員5500名が必要である。だが我が国の海運会社が保有する商船の多くは税金の安いパナマやリベリアなどの外国籍であり、乗組員のほとんどはフィリピン人など外国人だ。2007年の日本の商船会社が保有する外洋航路船の2214隻中、商船が日本本籍の外航船は92隻しかない。日本船員の数も3000人の大台を割り込んでいる。現在の状況はさらに悪化しているはずだ。

 つまり海上自衛隊のいうシーレーンは存在せず、シーレーン防衛はフィクションでしかない。だからまじめにシーレーン防衛などを考えそれに適合した護衛艦を整備してこなかったのだ。

 ソ連が健在だったころ、海自は高速で対潜水艦戦に特化した護衛艦の調達に傾注してきたが、これはソ連の潜水艦隊に対抗し、米第7艦隊を守るためだった(法的にあるいは集団的自衛権の行使の解釈上は非常に難しいはずだが)。

 つまり「護衛艦」の護衛する対象は商船ではなく第7艦隊だったというわけだ。海自は帝国海軍の伝統を強く受け継いでいるというが、艦隊決戦を夢見て、船団護衛をないがしろにしてきた帝国海軍の負の伝統も受け継いでいるように見える。

 ソ連崩壊後、現在の主たる仮想敵国は中国にあり、想定されるシナリオは外洋での艦隊決戦ではなく、近海の島嶼防衛だ。 ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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