メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

子どもたちの教育に対話型講義をーー埼玉県の先進的な「高校生白熱教室」の試み(上) 高い水準の議論

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

道徳教育の内容は?

 今、安倍政権のもとで道徳教育の教科化の検討が進められている。参議院選挙で教育は大きな争点にはならなかったが、今後、憲法とともに争点として浮上してくる可能性があるだろう。

 その際に重要なのは、「そもそもどのような道徳教育を行うのか」という点である。このような問題が浮上してくるのは「道徳教育が形骸化しているのではないか」という疑いが生じているからだろう。教科化の是非とは別に、そもそも人格形成を促進するために道徳ないし倫理などを教える精神的な教育は重要であり、その内容を実質的に意味のあるものにすることは教育にとって決定的に重要である。そのために何が効果的だろうか?

 筆者は、道徳教育に限らず、小学校から高校までの教育を甦らせる最大の方策は、マイケル・サンデル教授のハーバード白熱教室によって日本でも広く知られるようになった対話型講義を日本の教育に大きく導入することだ、と考えている。そこで、この可能性を提起するために、最近、7月29日に行われた埼玉県の高校生白熱教室を紹介しよう。

道徳的ジレンマ:規則と自由とモラル

 この「高校生のための対話型講義『白熱教室入門』」は、埼玉県教育委員会の主催で、すでに過去3年間、早稲田大学の国際会議場で毎年1回、継続して実施されている。この会議場は、ハーバード白熱教室が行われているハーバード大学のサンダーズ・シアターと雰囲気が似ており、会場としても絶好の場所である。

 これは第1部と第2部に分かれており、筆者は第2部の講師を務めて対話型の講義を埼玉県などの高校生に対して行った。県教育委員会の提案で、1年目は「10年後の自分を考える」(学ぶこと、働くこと)、2年目は「わたしと社会とのつながりを考える」、3年目は「これからの生き方を考えるーー公共に私たちはどう関わるか」というテーマで、道徳的ジレンマを私から提起し、それについて高校生たちが議論するという形で進められている。今年は300人くらいが参加した。

 1年目は、そもそもこのような大人数で対話型講義が活発にできるかどうかが大きな問題だった。幸い、非常に活発な議論がされたので、2年目は1年目よりも高度な内容の議論をしてもらった。この年の議論は非常に盛り上がり、傍聴していた筆者の関係者が「自分が見た中でも最高の対話型講義の一つで、感動した」というほどの水準のものになった。

 そして、3年目の今年は、さらに新しい試みを行ったが、 ・・・ログインして読む
(残り:約1881文字/本文:約2908文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

小林正弥の記事

もっと見る