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希望を忘れた関係に未来はない――韓国人サポーターの横断幕に思う

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

 7月28日に行われたサッカーの東アジアカップにおいて、韓国人サポーターが「歴史を忘れた民族に未来はない」との横断幕等を掲げたことは日韓両国で大きな話題となった。私のもとへも、多くの日本人の友人・知人から「なぜ韓国はあんなことをするのか?」との疑問が寄せられた。私自身もその映像を見たときは衝撃を感じ、悲しく陰鬱な気持ちになった。

 私はこの一年、両国で繰り返される憎悪と、相互理解を拒もうとする姿勢に度々悲しい気分にさせられた。特に日本も韓国も、相手国が強く反発することが容易に予想される行動を繰り返し、相手国の反発に対し非難をするという反復を飽きもせず繰り返している。

 双方に言い分はあろうが、一国のトップが領土問題で揉めている場所に上陸すれば相手国から反発を受けるものであり、両国間で懸案事項となっている施設に国会議員や大臣が大挙して向かえば当然のように相手国は反発する。日韓両国を愛するものとして、双方のいがみ合いは、どちらの行動であっても胸を痛ませるものであった。

 そんな中、今回の横断幕を見た時に、正直「またか」と思ったのだが、私はふと競技場の名前に目がいった。

 蚕室(ちゃむしる)スタジアム。

 そこは韓国人にとっても、私自身にとっても特別な思いを抱く場所である。蚕室スタジアムは1988年のソウルオリンピックのメイン会場で、当時、近所に住んでいた私はオリンピックの開会式におけるマスゲームに参加し、人一倍そこに強い思い入れを持っている。

 日韓ワールドカップに合わせて、2001年にソウルワールドカップ競技場が建設されるまで、韓国でのスポーツイベントと言えば蚕室スタジアムであり、多くの映像が目に浮かぶ。そんなスタジアムが、今回の東アジアカップに際して久しぶりに国際大会の舞台となった。

1997年11月、韓国・ソウルの蚕室五輪競技場でおこなわれたサッカーW杯予選の日本対韓国戦のスタンド。2002年W杯、韓・日共催の横断幕も掲げられている拡大1997年11月、韓国・ソウルの蚕室五輪競技場でおこなわれたサッカーW杯予選の日本対韓国戦のスタンド。2002年W杯、韓・日共催の横断幕も掲げられている
 そして、ある記憶が東アジアカップの横断幕で呼び起された。それは1997年11月に行われた日本と韓国の試合のことである。

 翌年のフランスにおけるワールドカップの予選であったその試合は、すでに韓国が勝ち抜けを決めており、日本は一試合も落とせない状況であった。緊張感で日本中が満たされ、当時、日本に留学していた私も、友人たちと試合の結果に注目したものだった。

 その試合当日、韓国のサポーターが「LET’S GO TO FRANCE TOGETHER(一緒にフランスに行こう)」という横断幕を掲げたのである。

 韓流ブームが熱を帯びる数年前の出来事である。1990年代半ばというのは、ようやく日本のスーパーにキムチが置かれ始めたような時期で、日本人が名前を挙げる韓国人は政治家しかおらず、正直、韓国に対して好印象を持つ人はあまり多くなかった。

 歴史問題での対立もしばしば起き、肩身の狭い気持ちを感じることも珍しくはなかった私は、その横断幕に、韓国の、そして日韓関係の明るい未来を感じた。そして、その後の日韓共催ワールドカップや韓流ブームでは、その希望が現実化されていく感覚を持ったものである。

 そうした記憶を元に、今回の横断幕や日本各地でのヘイトスピーチを見ると、 ・・・ログインして読む
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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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