メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

おおすみ級~いずも級 空母保有に向ける海自の野望と緻密な世論誘導

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 海上自衛隊が輸送艦、おおすみ級を建造した唯一最大の目的は、全通甲板をもたせること、 この一点だっただろう(1998年に就役)。全通甲板式だが空母ではないフネを建造することによって、国民の目を全通甲板式のフネに慣らして、空母保有への筋道を段階的(なし崩し的ともいうが)につけるための一里塚とするためだっただろう。

 おおすみ級は輸送艦だが、空母のような全通式の甲板を有している(ちなみに艦橋も空母同様のアイランド型だ)。だが航空機の運用能力は低く、「空母」と呼べるものではない。

北朝鮮のミサイルに備えてPAC3を輸送艦「おおすみ」に積み込む=2012年12月3日、呉市昭和町拡大北朝鮮のミサイルに備えてPAC3を輸送艦「おおすみ」に積み込む=2012年12月3日、呉市昭和町
 おおすみ級は揚陸艦として使いものにならない、と酷評されてきた。ヘリが整備できるわけではない、エレベーターが小さすぎる、同時に2機以上のヘリが離発着できない、固有の揚陸手段はLCAC(エア・クッション型揚陸艇)だけで、ウェルデッキは乾式で注水できないため、通常の揚陸艇などは運用できない……。

 だが、海自はそんなことは百も承知だっただろう。そもそも当時、海自は強襲揚陸作戦をおこなわないと公言していた。おおすみ級は揚陸艦ではなく、単なる輸送艦だ、というのが海自の言い分だ。事実、「輸送艦」と称されている。

 海自がおおすみ級を建造した最大の目的は「単なる輸送艦」に全通甲板を持たせることだったのだろう。

 つまり、政治家やメディアを含めた国民に全通甲板を持ったフネ=空母ではないよ、という刷り込みをおこなうことが最大の目的だったのだろう。むろん、それは今後空母を持つための布石の一歩だ。

 全通甲板を持ちながら、ヘリがハンガー(格納施設)で整備できるわけでも、同時に多数のヘリの離着艦ができるわけでもない。1番艦のおおすみにはヘリ離発着時の安定性を向上させるためのフィンスタビライザー(横揺れ防止装置)すらが装備されていなかった。

 エレベーターの能力も小さく、艦内にCH-47のような大型ヘリが収納できないが、これもハリアーなどのVTOL機が運用できませんよ、とのアピールだろう。だが、エレベーターが大きければ大型ヘリだけではなく、貨物の昇降も迅速にできるのだが。

 本来ならばこれらの機能を付加した方が有用な艦になったはずだが、高いヘリ運用能力を付加してしまうと「空母」と呼ばれる「危険性」があったからだろう、フィンスタビライザーは2番艦から装備され、後におおすみにも追加された。これはおおすみが空母か否かの議論が収まってから装備したという見方もできる。

 おおすみ級は輸送艦としての能力もわざわざ犠牲としている。だが海自には艦の能力を下げてでも全通甲板にこだわる理由があったのだろう。

 旧帝国海軍の伝統を色濃く残す海自にとって空母保有は悲願であり、自明の将来であり、本能だ。

・・・ログインして読む
(残り:約1478文字/本文:約2625文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

清谷信一の記事

もっと見る